大学生による食生産現場の見聞録 ~タイとオーストラリアの体験レポート~
【2025年度第5回勉強会】

・演 題:大学生による食生産現場の見聞録 ~タイとオーストラリアの体験レポート~
・日 時:2025年9月22日(月)18時~19時30分
・場 所:I-siteなんば(大阪公立大学サテライトキャンパス)
・講 師:山口夕(大阪公立大学農学部教授)
     伊坂和也(大阪公立大学農学部4年生)
     石原奈苗(大阪公立大学農学部4年生)
・進 行:小泉望
・参加者:会場参加9名、オンライン参加(後日アーカイブ視聴含む)37名
・文 責:小泉望
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 まず山口夕さんから、大学における食に関する教育は食の学びは、栄養学や調理技術、生産技術にとどまらず、文化、経済、環境、心理学、芸術、政策など幅広い分野にまたがることが述べられ、ユニークな教育を行っている例として京都府立大学「食の文化学位プログラム」、中村学園大学「食MBAリカレント教育プログラム」、 立命館大学「食マネジメント研究科」、 東洋大学「国際観光学部フードマネジメント領域」、明治大学「農学部食料環境政策学科」が例示された。
続いて大阪公立大学の食生産科学副専攻が紹介された。成り立ちは大阪府立大学時代に食品安全行政の中核を担う存在である獣医師を育成する獣医学類(現獣医学部)と作物生産やバイオテクノロジーに関する教育研究を行う応用生命科学類植物バイオサイエンス課程(現農学部応用生物学科)による文部科学省の大学教育・学生支援推進事業「動植物系教育融合による食の教育プログラム」であった。その後、学内副専攻としての教育プログラムが定着した。特徴は獣医学と農学の交流プログラムであることと、学外の様々な機関と連携した融合型プログラムで実学を重視していることである。受け入れ機関のキャパシティーからも1学年、獣医10名、農学10名の最大20名としている。
 国内の学外連携機関としては、神戸大学農学部、大阪府立農芸高校、動物検疫所、植物防疫所、セッツ株式会社、日本食品分析センター等がある。海外に関してはタイ、オーストラリア(2024年まで)、ベトナム(2025年より)の生産、食品加工現場や大学、研究機関と連携している。
 タイの国際流通論演習に関して石原奈苗さんから紹介があった。日本は鶏肉、豚肉の主に加工品をタイから多く輸入している。鶏肉は62%(2023年)、豚肉は22%(2023年)。従って、多くの日系食品企業がタイに進出している。メリットは生産コストが安価である(人権費に限らず、原料調達の面からも)ことや税制優遇措置。カセサート大学では「持続可能な生産の取り組みに力を入れている」ことが印象的だった。オープンマーケットでの衛生状態は必ずしも良いとは言えない。プリマハムタイランドの工場は海外では唯一の特定JAS認定工場であり、日本よりも厳しい温度管理のもと生産が行われてる。原材料はタイの契約農場から仕入れ、製品の85%は日本に輸出している。その他、サイアムヤマモリ(レトルト食品)、ヤマモリタイランド(しょう油)、ウエノファインケミカルインダストリー(ソルビトールなどの食品添加物)などについて紹介された。
 伊坂和也さんがオーストラリアの体験を紹介した。訪問先はオーストラリア南部のアデレード。大規模農業見学では土地が乾燥しており、鉄分が多いため赤みを帯びていた。巨大スプリンクラーで潅水を行うが塩害が発生するという問題がある。栽培されている作物はオーツ麦、ナタネ等。オーストラリアは麦類の生産が多く、生産においては小麦が世界第5位、大麦が2位、オーツ麦が5位。一方で、輸出に関しては2位、1位、2位と麦類の輸出国である。特に麦類の育種にも力を入れていて、乾燥や塩害に強い品種の開発を行っている。Australian Plant Phenomics Facility (aPPF)では完全自動生産管理システムにより自動的に植物の表現型を測定、解析ができる。また、肉牛の飼育も盛んである。日本の牛肉の輸入はオーストラリア産(いわゆるオージービーフ)が最も多く45%に達する。オーストラリアで生産される牛肉の約70%が輸出され、麦類と同じく輸出が国内消費より多いと言える。THOMAS FOODS INTERNATIONALでは肉牛の屠殺から内臓摘出、解体、梱包までの一連の流れを見学した。日本との違いとして水を可能な限り使用しないことが挙げられる。また、アニマルウェルフェアへの配慮とハラル認証取得にも注力されている。農業祭ではFarm to Table (農場から食卓へ)を分かりやすく理解することが出来た。生産者と消費者をつなぐイベントは、食生産の理解に重要である。
最後に山口さんから協力機関へのお礼が述べられ副専攻修了生の声が紹介された。

講演終了後はアニマルウェルフェアやハラル認証、食品加工場や屠畜場の衛生管理など、主として海外レポートについての質疑が活発に行われた。

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