「食の現場を知ることの意義」~食の「メディア」から「流通」へ~

・講 師:山口沙弥佳氏(大阪地産地消野菜宅配「となりの畑」代表)
・会 場:エコール 辻 大阪
・参加者:15名
・文 責:小山伸二

食べもの付きメディアとして登場した「食べる通信」を大阪で立ち上げた山口さんを講師に迎えての勉強会。2016年に新しい食のメディアとして創刊した「大阪食べる通信『つくりびと』」編集長から、現在は、大阪地産地消野菜宅配「となりの畑」代表として、野菜の流通の世界に転身を果たされた。

大変、遅くなっての報告、どうぞ、ご容赦下さいませ(2020.5.14)。

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山口さんは、豊かな食文化とは、ほぼ無関係な生活だった会社員時代から、子育てに専念する生活にはいったことをきっかけに、食について考えるようになったそうです。
とくに、子供たちに、ちゃんとした食材で作った料理を食べさせてあげたいと考えはじめたときに、偶然、東北開墾で全国に展開し始めた「食べる通信」というメディアに出会った。
そこで、一念発起して、自ら、大阪の「食べる通信」を立ち上げることに。

大阪には東京から移住してきたので、もちろん、大阪府下の生産者ともまったく面識のないなか、てさぐり状態で、生産者と都市住民をつなげるメディア作りに挑戦した。
その過程で、都市近郊農業の抱える問題や、都市住民の日々の生活のなかでの食をどうしていくのかという悩ましい課題をつなげることで、新しい食の関係性を構築できないかと、悪戦苦闘の日々が続いた。

そして、ひとつの答えとして、たんなる「地産地消」ではなく、「知産知消」が必要なんだ、と。
つまり、生産者、消費者が、それぞれの現場を「知る」ことで、たんに消費するだけではなく、より豊かな「食の関係」を築き上げる道を探り始めた。

食べる通信は、生産現場の情報や物語を伝え、実際にその産物が届くという「メディアと流通」のハイブリッドサービスだ。

ただし、課題も多くあった。
まず、流通としての難しさは、奇数月に発行の媒体とどうしても旬がずれてしまうことがあった。とくに、天気などのどうしようもない条件で発送日がずれてしまったり、フルーツの詰め合わせセットのときには、うまく数が揃わないなどの、事態が起きてしまった。

いっぽう、メディアとしての難しさは、素材の選定の面白さでいくのか、安心安全の基準をどう考えるか、面白いネタ探し、人物重視を追求するのか、そのあたりが悩ましかった。
また、読者のリアルな声が、なかなか伝わらない。メディアとし、現場のリアルをいかに伝えるかでも、模索は続いた。
そこで、紙媒体だけではなく、動画作成やイベントなどにも挑戦して、メディアとしての可能性を拡大していった。

その後、山口さんの活動はつぎのステージに。
「食べる通信」を卒業して、こんどは、メディアとして、情報ということではなく、食卓で楽しんでもらうことをゴールに、新しい流通業、小売業のあり方にチャレンジを始めた。

「となりの畑」は、たんなる宅配サービスではなく、「食べる通信」で培ったノウハウを注ぎ込んで、生活者が生産者をリアルに感じることができるように、定期的にイベントや、動画配信で料理のアドバイスなどを積極的に展開。
さらに、台風などの自然災害の折には、被害を受けた生産者に対しては支援のネットワークを作り、生活者に対しては、長野県で生産者とのコネクションを築いて宅配を続ける、という活動もされた。
https://tonarino-hatake.com/

ひとは知ることで、楽しくなれる。
つまり、食の現場を知るだけで、面白いことがあり、それが日々の食生活を豊かにしていく。

そんな山口さんの挑戦は、始まったばかりだ。

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なお、直近のメッセージを山口さんからいただきました。
「最近は、生産者を知る、ということが全てなのではなく、間に立つ私たちのことを、お客さんがしっかり知ってもらうことで、より強い絆のバトンが生まれると思い始めてきました。私たちを知り、私たちを信頼しているからこそ、生産者も信頼できる。ということです。
結局やはり人は、目の前の会ったことのある人に心を寄せるものだなぁ、と実感する日々です。」

【講師プロフィール】山口沙弥佳(やまぐち・さやか)氏
某証券会社を経て、2016年5月~2017年8月、大阪食べる通信「つくりびと」編集長。
2017年10月より、大阪地産地消野菜宅配「となりの畑」代表

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