「ブランド豚肉の生産・流通を考える」の視察報告

・講師:松本徹郎氏(公益財団法人東京都農林水産振興財団事業課青梅畜産センター長)
    植村光一郎氏(TOKYO X-Association 会長)
・日時:2012年10月30日(火)10:00~14:00
・於 :(公財)東京都農林水産振興財団青梅畜産センター
     東京都青梅市新町6-7-1 TEL0428-31-2171
    (JR青梅線小作駅東口より西東京バス三ツ原循環で10分「平松北」下車徒歩3分
     または、駅前タクシー利用約10分)
・参加者:16名
・まとめ:木村滋子

 現場に出向いて「食べて学ぶ勉強会」の第2弾。ブランド豚肉の開発・生産、TOKYO X-Associationの流通について、センター内を見学の後、実際にブロック豚肉を捌いて商品化されるまでのプロセスを確認し、TOKYO Xの部位ごとの食べ比べを体験した。

■東京特産豚肉の開発を目指して―「TOKYO X」の開発

 TOKYO X の開発について、(公財)東京都農林水産振興財団青梅畜産センターの松本センター長より、お話を伺った。
 TOKYO X は、「輸入豚肉と差別化した東京都の特産豚肉」を目指し、開発された。開発にあたっては、生産者の立場から「都市養豚でも差別化により十分に収益が上がる肉豚生産」を目指すと同時に、消費者の「安全でおいしい畜産物に対するニーズ」にも応えること、即ち、生産性だけでなく「おいしい豚肉」作りのための系統造成が目標であった。
 系統造成は、平成2年4月から、3品種(北京黒豚、バークシャー種、デュロック種)を用いて5世代にわたる交配を繰り返した。これにより、平成9年7月に(社)日本種豚登録協会(現、(一社)日本養豚協会)から合成種としてはわが国で初めて系統豚「トウキョウ X」として認定を受けた。

■畜産センターの見学

 畜産センター内は、口蹄疫や鳥インフルエンザ等の家畜伝染病に対するに厳しい防疫管理のため、実際に畜舎に入って豚に触れることはできなかったが、豚飼養エリアの外から、遠目に黒や茶色の子豚の姿を目にすることができた。黒、茶、黒と茶の斑等、毛色は様々であったが、これらはすべてトウキョウXの子豚であるという。系統を守るために、種豚の血統関係を考慮した交配をしている。また、系統豚の能力を最大限に活かし、高品質な肉豚を生産するために、トウキョウX生産組合によって、飼料や飼養方法についての細かい約束事が決められている。


 ここ青梅畜産センターの種豚から生産された子豚が、トウキョウX生産組合の農家に配布され、そこで、増殖生産される。トウキョウXは都内だけでなく、都外の農家でも生産されているが、いずれもトウキョウX生産組合が指定する専用の飼料を使用し、厳しい飼養管理基準に従い大切に育てられている。平成24年度は、年間目標生産量9千頭(出荷頭数)を目指しているという。

■ブランド豚肉の生産・流通を考える

 続いて、TOKYO X –Association会長、植村光一郎氏より、「ブランド豚肉の生産・流通」についてのお話を伺った。


 TOKYO X は、1990年代後半の時代背景もあり、四つの理念「東京Sa(さ)BA(ば)Q(く)」(Safety:安全・安心)(Biotics:本来の生命の力を活かす)(Animal welfare:動物福祉)(Quality:三品種からの新しい品種)を基に開発された。「消費者に安全でおいしい豚肉を食べてもらいたい」という生産者の思いから、自発的に「第一回肉質検討会」が開催された。基準化することの難しい「おいしさ」を明確化し、「第5・6肋骨間のカット断面」による肉質判定や飼料や飼養方法の検討などの生産者サイドの取り組みとともに、販売においても他ブランドとの差別化を図り、消費者ニーズに対応した一貫した生産・流通のためTOKYO X –Associationが設立された。TOKYO X –Associationは、百貨店、専門店、外食、食肉加工、高級量販店、量販店、食肉処理の7業種の代表より役員を選出し、TOKYO X のおいしさだけでなく、その背景にある生産者のこだわりや思い、おいしさのワケまでを伝える流通・販売を目指す。植村氏は、「消費者がよい食材を評価し、それに対して対価を支払う」選食力を持つことが必要であり、そのことによって、いい食材が増える環境づくりができると言う。TOKYO X ブランド化の取り組みを、ライフワークとしての食へ高める「食育」活動にも意欲的に取り組んでいる。

■部位ごとの薄切り肉の食べ比べ

 
植村氏のレクチャーのあとはお待ちかねの試食タイム。植村氏自ら、ロース、バラ、モモ(ランプ、ウチモモ、ソトモモ、シンタマ)、カタ(ウデ、カタロース)、ヒレと順々に、筋や余分な脂をトリミングし丁寧な処理をしながら薄くスライス。鍋に沸かした湯をさっとくぐらせ、しゃぶしゃぶで食すと、口に含んだ瞬間、ほんのりまろやかな風味が口中に広がり、予想をはるかに超える柔らかな食感に思わず「柔らかい」「おいしい」と感嘆の声が上がった。部位ごとに異なる歯ごたえ、食感、味わいが確認でき、それぞれの調理適性について意見交換を行っていた。獣臭さがなく、程よい脂のノリに甘味と旨味、やわらかな食感が「TOKYO X」の特徴であるが、枝肉の扱いやこのような丁寧な処理によってこそ品質の高さが守られるのだろう。

 今回の会場は、新宿から直行特快で53分の小作駅からさらにタクシーで10分ほどと、やや遠方ではあったが、普段の座学とは違って、頭だけでなく五感もフルに使い、まさに「食べて学ぶ」体験型学習の良さを十分に堪能することができる充実した内容であった。

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