広告から考える食とジェンダー
【2022年度第2回勉強会】

・演 題:広告から考える食とジェンダー
・日 時:2022年6月9日(木)19時~20時30分
・講 師:瀬地山 角(東京大学大学院総合文化研究科教授)
・進 行:畑中三応子
・参加者:会場参加13名/オンライン参加41名
・文 責:畑中三応子
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1999年6月「男女共同参画社会基本法」が施行されて20年以上経つ今なお、「食生活は女性役割」という意識が根強い。新型コロナ感染拡大以降、家で食事を作る・食べる回数が増え、料理する楽しみを見出したという声がある一方で、1日3食作る負担への悲鳴もよく耳に届いた。
共稼ぎでも、こんな危機のときでも、料理するのはやっぱり妻のほうだ。2016年の総務省「社会生活基本調査」によると、男性が調理・後かたづけなど「食事の管理」にかけた時間が1日たったの12分なのに対し、女性は1時間28分と7倍以上の時間を費やし、家事時間でもっとも男女差が大きいのが食事の管理だった。
男性の意識変革と行動変容を促し、男女の性役割を変えるのには何が有効なのか。ジェンダー論の研究者である瀬地山角さんに、炎上したCMを見ながら、その解説とさまざまな問題提起をしていただいた。

■炎上CMは大きく4つのパターンに分類できる
第Ⅰ象限:女性を応援したつもりが、性役割分業の現状追認と受け取られ炎上
第Ⅱ象限:女性を応援したつもりが、容姿や外見の面で性差別と受け取られて訴求層を分断し、炎上
第Ⅲ象限:万人受けするつもりで作られたが性的メッセージが強く、男性の欲望の表出となって炎上
第Ⅳ象限:男性を応援したつもりが、性役割分業の現状追認と受け取られ炎上

今回、第Ⅱ・Ⅲ象限は省略。第Ⅰ象限としては、1975年に大きな物議を招いたインスタントラーメンのCM「私作る人、僕食べる人」があまりにも有名だ。ところが37年後の2012年に放映された味の素のCM「日本のお母さん」は、女性の性役割の描き方が変わっていないどころか固定化・強化。大きな批判を受けた。
第Ⅳ象限は、一昔前の栄養ドリンクのCMが典型。夫はどんなに疲れていても、ドリンクを飲んで妻と子のために頑張って働くというストーリーがおもしろおかしく描かれる。だが、これが笑えないのは中高年男性の自殺。コロナで女性と子どもの自殺が増えていることが問題視されたが、7対3だった自殺の男女比が2対1に変わっただけ。経済・生活上の理由から自殺するのは圧倒的に中高年の男性が多いのが現状だ。
時代錯誤な性役割分業規範の肯定が批判されるのは当然。CMが好意的に受け入れられるには、時代の半歩先を行くことが求められる。

■データが語るジェンダー不平等
専業主婦の比率は地域で全然違う。大都市部には共働き世帯が多いと思われがちだが、実は逆。専業主婦が多いのは大都市とその周辺部、奈良県、大阪府、神奈川県など夫の収入が高い地域。対して妻の有業率が高いのは、東北、北陸などで、夫の所得が低い地域。つまり夫の所得が高いほど専業主婦世帯が増える。もはや専業主婦は豊かな階層しか享受できないライフスタイルなのである。
2015年の「出生動向基本調査」によると、未婚の女性が結婚相手の条件として求めるものは、1位の「人柄」はとりあえず置いておいて、2位「家事・育児の能力」、3位は「仕事への理解」、4位がやっと「経済力」で「容姿」や「学歴」はさらに下。
また同調査で、専業主婦になりたいと思っている未婚女性は7.5%だけで、妻に専業主婦になってほしいと思っている未婚男性も約1割。夫がひとり大黒柱になり経済的に家庭を支える時代は終わった。
にもかかわらず、男性の家事時間は少なすぎる。2016年「社会生活基本調査」で、共働き世帯の夫の家事関連時間が1日わずか46分に対し、妻は4時間54分。女性の「仕事も家事も」の二重負担は是正されなくてはならない。
また、高等教育における女性差別も著しい。女子は地元から出ることは許されず(成績がよくても東大、京大は目指せず地元国公立に進学せざるをえない)、浪人を認められない(よって志望校を下げる)など、女性は高等教育の機会を平等に与えられていない。その結果、会社などで指導的立場に就く女性の比率が増えないまま。女性が生きやすい社会づくりを妨げる大きな原因になっている。

■持続可能な社会を目指すために
男性の育児時間も少なすぎる。6歳未満の子を持つ夫の育児時間は共働き・片働き合わせて夫49分に対し、妻は3時間45分。英語に「イクメン」という単語はないように、育児をする父親を特別視する日本社会はおかしい。
植林をしない林業者と植林をする林業者が自由市場で競争したとしたら、相手が植林をしている間に伐採を続ける前者が必ず勝つ。だが、30年後には山がみなハゲ山になって保水力を失い、大水害に見舞われる。この植林を子育てに置き換えて、子育てをしない労働者ばかりが正社員になってきたのが日本。その結果、行き着いたのが現在の極端な少子化だ。
もし女性が正社員として30年働いたとしたら年収300万円の人は1億円、400〜500万円の人は約2億円手に入る。しかし、第1子出産後、正社員を辞めない女性は25%程度。多くがみすみすジャンボ宝くじを手放している。
もし、夫の家事関連時間46分と妻の4時間54分を足した約6時間を男女平等に3時間ずつ家事をすれば、妻も正社員で働ける。この場合の夫の家事の時給を計算すると、1日平均3時間だと年間約1000時間になるので、女性の年収の300万や500万を1000で割ると、3000円から5000円になり、夫自身の残業代より高い。すなわち、残業するより家に帰って家事をして妻が正社員を続けるほうが、経済的にぐっと豊かにもなるわけだ。

瀬地山さんの話をダイジェストすると以上。ほかにも「言葉の政治」として英語のtheyを「彼ら」と訳すのはもはや不適切で現在は三人称単数として使うこと、「ノンバイナリー」「シスジェンダー」「トランスジェンダー」や「SOGI」などマイノリティーをめぐる言葉の使い方に関する話もあり、非常に情報量が多く凝縮した内容の勉強会になった。

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