「食分野での電子書籍、電子メディアの可能性」の報告

・講師:落合早苗 株式会社hon.jp 代表取締役
・2014年7月24日(木)18:30~20:00
・於:東京ウィメンズプラザ第一会議室
・参加者:23名
・まとめ:村井康人

 電子書籍やアプリの登場によって、読書のスタイルに変化が起きている。
 今回は、電子書籍に関連したシステム開発などの事業を展開し、国内唯一の電子書籍検索データベースを公開している「株式会社hon.jp」の代表取締役、落合早苗氏に電子書籍の市場動向と食の分野での電子化の事例などを、豊富なデータとともにお話いただいた。

■ 電子書籍検索サイトhon.jp

 2004年、ソニーの電子端末「リブリエ」が発売された。当時、電子書籍と言われるものは約2万点、販売する書店の数は10社程度だった。その翌年の2005年、hon.jpは、欲しい本が電子書籍化しているか、どこで売っているのかを検索するサイトとしてオープンした。
 現在、電子書籍は約70万点に増えたことで、タイトルと著者名、出版社名だけでは目的の書籍を同定できにくくなっている(図書目録の表記方法の違いやサブタイトルの有無、シリーズ物の場合は新刊なのか既刊なのかなど)。hon.jpでは、最終的に人が見て調べて判断することで、検索結果に対して高い信頼性を獲得している。

■ 電子書籍の現状

 2013年度は、電子書籍・雑誌の市場は1,013億円となり、順調な伸びを示している。単行本やコミックの電子化率が高く、実用書、ゲーム関連書、児童書の電子化率は低い。
 インターネット普及当初からあったマイクロコンテンツは、ウェブ上の記事やレポートなどを記事単位、あるいは本や雑誌を章や数ページ程度の記事単位に分けて販売するもので、価格も安く気軽に読めることで最近特にヒットしている。さらに、新たな電子書籍のジャンルとして専門書や教科書も増えている。
 一方、ベストセラーの電子書籍化には、作者の許諾を受けられないという問題や、電子化する上で、書籍ではなくアプリにするなど、別の形態が向いているジャンルもあり、必ずしも電子化と電子書籍化はイコールではないと指摘した。

■ 「食」関連ジャンルのデジタル化

 落合氏は、食のジャンルを「レシピ」「グルメガイド」「食生活・食文化」の3つの分野に分けて解説。
 「レシピ」は、早くから電子化が進んでいて、有名人のブログや一般の主婦のブログが電子書籍になっている。また、レシピをアプリ化することで人数を変えて材料を表示したり、タイマー機能をつけることによって煮る時間や焼く時間を知らせたりすることもできるようになる。人気レシピサイト『クックパッド』では、プロの料理人の電子書籍を料理ごとに細かく購入するサービスも始めている。
 「グルメガイド」では電子化のメリットは高い。グルメガイドは情報の鮮度が重要だが、印刷物になることで情報が固定化され、年数を経て古くなる欠点がある。グルメガイドを電子書籍化することで、常に新しい情報がアップロードできるようになる。さらにアプリ化することで、新しいメニュー情報や店舗情報などのアップデートをリアルタイムに更新できるようにもなる。
 「食生活や食文化」でも、電子書籍化されるケースは多くなっている。
 食事を撮影することでプロの栄養士が栄養分析をしてくれるアプリや、カロリー管理をデータベースと連動して自動計算するアプリなどがあるなど様々な例をあげた。


 電子化された情報が生活の中に浸透している現在、その分野の最前線にいる落合氏の話を聞けたことは貴重な機会だった。新しい分野の今を知ることで誰にでも関係があり、仕事の幅が広がる、と感じられるわかりやすい内容だった。
 報告書では主な項目をピックアップしたが、会場ならではの深い話を聞くことができた。質問では、出版に対するハードルが下がったことへの危惧や、アメリカの価格破壊の現状に対して日本の状況はどうなのか、など積極的な質問がでていた。

タイトルとURLをコピーしました