「『地方創生』にかける史上最年少副町長の挑戦」の報告

・講 師:井上貴至(鹿児島県長島町・副町長)
・日 時:2016年5月26日(木)18:00~20:00
・会 場:東京ウィメンズプラザ 第二会議室
・参加者:29名
・まとめ:小山伸二

■勉強会のねらい

総務省から出向して、2015年4月より鹿児島県長島町の副町長に就任された井上貴至さんをお招きして、各方面から注目されている「地方創生」に向けた長島町の取り組みをお聞きすることに。

■長島町副町長になるまでの経歴

井上さんは1985年、大阪生まれ。2008年、東京大学法学部卒業後、総務省に入省。柔道二段で、現在も稽古を続けて、将来の夢は百歳級(?)の世界チャンピオンになることとか。
学生時代から地方が大好きで、日本各地の祭りに足を運び、地元の方々との交流を実践。総務省入省後も各地の任地で、休日をすべて返上して地域のなかに入り込んで来た。
2015年4月、政府が進める地方創生施策のひとつ「地方創生人材支援制度」の第一号として、鹿児島県長島町に副町長として赴任。この制度自体、井上さんの提案が実現したものだった。

■持続可能な地方創生に向けて

井上さんの赴任地は、「地方創生人材支援制度」に名乗りをあげた鹿児島県長島町からのオファーで決まった。
町は、長島本島と大小の島からなり、豊かな自然と温暖な気候に恵まれ、海産物、柑橘類などの名産品にも恵まれている。とくに、ぶりの養殖では世界一のシェアを誇っている。
ただ、1960年には2万人を超えていた町の人口も、現在は1万人程度で、2040年には7000人まで減少することが予測され、多くの地方自治体と同様、過疎化の課題を抱えている。
外からの視点と人脈を島に持ち込んだ井上さん。2015年4月に副町長に就任するやいなや、次々に施策を提案・実行してきた。そのスピードの早さと、自分たちがやっていることの「見える化」、情報発信にたけていた。
まずメディアで注目を集めたのが、地元の金融機関、漁協などと連携して新設した「ぶり奨学金」。
高校のない島から若者たちが出て行ったあと、ふたたび地域に帰ってくるための仕組み作り。ただ行政が期間限定で補助金を出すのではなく、鹿児島相互信用金庫と提携した上で漁協、町民も負担する、新しい「持続可能な仕組み」を実現した。
「脱・ハコモノ行政」、持続可能な仕組み作りという観点に基づいたものだった。

■「食」を中心にさまざまな施策を実現

地元の食を中心とした「資産」を、外部の仕組み、企業、人材とを活用しながら、実際、長島町に移住して活動を支える若者たちを、井上さんはどんどん巻き込んでいく。
ほかに、赴任後の1年ほどの間で下記のようなものを立ち上げた。

●ECサイト「長島大陸市場」のオープン(ネット上でのいわば「道の駅」)
●東京都心における「長島大陸ブリうま食堂」(キッチンカー)の運行
●食べ物付情報誌「長島大陸食べる通信」の創刊
●長島町公式アカウントによるレシピサイト「クックパッド」への投稿
●地元で楽しむ長島大陸市場食堂
●食べ物付き情報誌「長島大陸たべる通信」創刊
●生産者と一流シェフ交流事業
●辻調理師専門学校との包括協定

こうしたスピーディーな展開のために、長島町では、井上さんが「地方創生」の活動に専念できるよう、副町長2名体制になっている。
もう一人の副町長が町役場本来の実務を担当。井上さんは、役場を飛び出し、島の内外、さまざまな関係者、事業所の現場に足を運んでいるという。小さな島の中での利害調整も、学生時代から培ったコミュニケーション能力で乗り切っていった。

■持続可能なものにするために

元々、資源も人的資産もある長島町だが、外部との接点、交流作りに関して、井上さんを中心に徐々に広がりをみせている。地元の人と、この地域に魅力を感じて外から入り込んで来た若い人たちとの間をつなぎ、長続きする仕組みを作ることが重要。そのために、島の外と内をつなぐ仕掛にも取り組んできた。
都会の大学生が島内にホームステイして、地元の子供たちに勉強を教える「伝える獅子島の子落とし塾」や、カドカワ・ドワンゴと連携したネット教育事業、「できるまで帰れません」というタイトル通りの大学生対象の地方創生のプランの実現までのコンテストなど、「教育」「人づくり」という課題にも取り組み始めている。

■まとめ、そして感想

最後の質疑応答では、この長島町の動きが、日本全国のモデルになるのか。「地方創生人材支援制度」は、制度として機能しているのか。いつか井上さんが離任したあと活動の持続性は担保されているのか、など質疑が相次いだ。
「地方創生」への道はひとつではない。すぐに「結果」が出せる類いの課題でもない。むしろ持続可能な取り組みにするための「人」作りが重要に。この活動が、他の地域へのモデルとして機能するために、「地域おこし協力隊」や、都会の学生と地元の子供たちを繋げる活動を通して地元のマンパワーも発掘していきます、と最後まで丁寧に答え続けられた井上さん。

日本全体の課題である「地方創生」に挑む若き行政マン。若い世代のコミュニケーションのツール、コミュニティ作りのスタイルとスピード感を武器にしながら、泥臭く、丁寧に地元の方々と話し合いを重ねる姿に深い共感を覚えました。

*井上貴至さんの日々の活動はこのブログで読むことができます。
http://blog.livedoor.jp/sekainotakachan/

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