「福島県産米の全袋検査はいつまで必要か?今後の方向性を考える」の報告

・講 師:大波恒昭氏(福島県水田畑作課課長)
・会 場:ベルサール飯田橋
・参加者:58人
・まとめ:大久保朱夏

福島県は、平成30年度以降の米の全量全袋検査をどうするか検討に入っています。多様な人々の意見を聞き、方向性策定にいかしたいと、福島県農林水産部、食生活ジャーナリストの会、Food Communication Compass(フーコム)が合同で秋の特別勉強会を開きました。
担当課長の大波恒昭氏が全量全袋検査が実施に至るまでの背景、検査体制、検査結果、今後の課題について説明。その後、フーコム・松永和紀氏の司会で意見を交わす会となりました。なお、個人の考えを発言しやすくするため所属は言わずに、職種を述べてから意見や質問をするスタイルで進行されました。

■福島の米は科学的には安全。
かかった経費は5年間で約312億円

 大波氏によると、福島県では原発事故の翌年、平成24年産米から県内で生産された米に基準値を超過する放射性セシウムが含まれていないかを測定しています。毎年1,000万点以上の米袋が検査の対象になり、これには農家の自家消費米や縁故米も含まれます。これまで土壌の除染や肥料のカリウムの上乗せ施肥による吸収抑制対策の効果で、27年産米以降は国の基準値を超える値は検出されていません。測定下限値以上を検出した米の数も年々減少し、放射性セシウム汚染のリスクは震災直後と比較して大きく低下しているといえます。
 一方、全袋検査には毎年50億円以上、これまでの5年間で約312億円という多額の経費がかかっています。そのうえ最近は、県内にある約200台の検査機器の老朽化という課題に直面しています。さらに検査場までの米の運搬や、膨大な数の米袋にシールを貼るなど一連の作業に対する生産者の負担が依然として大きいとの話もありました。
 大波氏の説明で、すでに福島の米は科学的には全く安全だというレベルになっていることが分かりました。

■土壌、流通の忖度、全量全袋検査の周知率
今後の検査についてのさまざまな意見

 
 講演後の意見交換では、検査をやめたあと、万が一、基準値を超える米が出る可能性がある。そのときはどう対処すればよいかのやりとりもありました。「そういう場合に大事なのは検査結果ではなく、セシウムを低減させる対策が実施されているということをメディアの人たちに知らせるべきだ」との意見も出ました。
 このほか、「流通業者が勝手に消費者の意識を忖度(そんたく)して、福島県産の米を扱わないという側面もある」「まだ全袋検査そのものがあまり知られていないので、その周知率を上げていくことが課題」「ここまで安全ならば、検査態勢を縮小し、サンプリング検査に移行していくのが妥当ではないか」「カリウムの施肥をやめたら、土壌に残るセシウムが逆に稲に吸収されやすくなるのではないか」「安全なデータがそろっているのだから、県はもっと安全性に自信を持ち、検査縮小に向かってもよいのではないか」などさまざまな意見が出されました。
 今回の勉強会は風評を考えるうえでも有意義なものとなりました。フーコムネットに掲載されている、松永和紀氏×福島県水田畑作課課長・大波恒昭氏の対談も今後の方向性を考えていく上で役立つ情報です。ぜひご一読ください。
(前編) http://www.foocom.net/column/editor/16157/
(後編)http://www.foocom.net/column/editor/16164/

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