「歴史から考える“ヘルシーって何?”~中世・地中海ダイエット~」の報告

・講 師:山辺規子氏(奈良女子大学 研究院人文科学系人文社会学領域教授)
・会 場:エコール 辻 大阪 1階カレッジホール
・日 時:2017年8月30日(水)18:00~19:30
・参加者:25名
・まとめ:八木尚子(JFJ会員)

今回は、中世の地中海世界の健康と食の考え方について奈良女子大学教授・山辺規子先生から話をうかがい、改めてヘルシーとは何かを考えた。

■地中海一円で共有される食文化
2010年に地中海の食事法(ダイエット)がユネスコの無形文化遺産に登録されたが、これはイタリアをはじめ、スペイン、ギリシャ、キプロス、モロッコなど、地中海を囲む複数の国が対象となっており、気候風土の似たこれらの国の間に共有される食文化があることを示している。

■地中海食への注目
地中海地域の食への関心が高まったのは、第二次大戦後にアメリカの学者が行った各国調査により、肉中心のいわゆる欧米型の食事に比べて、野菜や穀物を多く摂取する地中海式食事の方が健康につながることが指摘されたのがきっかけだった。

■中世医学のセンターと食養生
上記の調査で特に注目されたイタリア南部には、中世医学のセンターとされたサレルノ医学校があった。ヒポクラテス以来の古代ギリシャ、ローマの医学とアラビア医学が融合したその教えは、著作を通してヨーロッパ全体に影響を与えた。基本的な考え方は、日々の生活を秩序だて、身体のバランスを保つ養生が第一で、次に必要であれば薬草を用いた内科的治療を行い、外科的治療は最後の段階という予防医学的なものだった。

■中世の医者はバランスアドバイザー
病気は、血液、黄胆汁、黒胆汁、粘液という4つの体液がもつ冷・温・乾・湿の性質のバランスがくずれることによって生じると考えられた。年齢(幼・青・老)や季節もバランスに影響する。また、食べ物にもそれぞれ冷・温・乾・湿の性質があるから、食べることによって足りないものを補い、バランスを保つのが食養生の基本だった。そして、そのアドバイスを与えるのが中世の医者の重要な役割だった。

■食養生マニュアル
したがって、医者は食べ物の性質を知悉している必要があったが、その仕事をより容易にするため、300種近い食材の性質とその強さ、何と合わせて食べればいいかを一覧表にした、マニュアル本も著された。さらに、王侯向けに、食材と食べ方を分かりやすく記した本には、豪華な図版が付されていて、当時用いられていた食材とそれに対する価値観も読み取れる。

ダイエットとは、そもそも「日々の暮らし方」を意味し、すなわち日々いかに食べ、暮らすかというのが原義とうかがい、いかに食べるかが重要であることを再確認した。また、山辺先生が引かれた、医聖ヒポクラテスが説く医の基本も心に残った。「言葉が癒し得ぬものは、薬草が癒す。薬草が癒し得ぬものは、メスが癒す。メスが癒し得ぬものは、死が癒す」。

<山辺規子氏:プロフィール>
1984年、京都大学文学研究科 西洋史学 修士課程学位取得。
橘女子大学文学部助教授を経て、2004年より奈良女子大学 研究院人文科学系人文社会学領域教授。
共著に『15のテーマで学ぶ中世ヨーロッパ史』(ミネルヴァ書房)、『地中海ヨーロッパ』(朝倉書店)、『イタリア都市社会史入門』(昭和堂)ほか、共訳書に『世界 食事の歴史』(東洋書林)、『ヨーロッパの食文化』(平凡社)。

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