和食料理人 野﨑洋光が語る「料理ドラマの裏側」
【2026年度第3回勉強会】

・演 題:和食料理人 野﨑洋光が語る「料理ドラマの裏側」
・日 時:2026年7月29日(水)19時~20時30分
・講 師:野﨑 洋光/和食料理人
・進 行:矢内真由美
・参加者:会場参加26名、オンライン参加42名
・文 責:矢内真由美
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 今回の勉強会では、今年3月にNHKで放送されたドラマ「魯山人のかまど」で料理監修を務めた料理人・野﨑洋光さんをお迎えし、撮影現場でのエピソードや料理監修の仕事、日本料理への思いについてお話を伺いました。
 野﨑さんは、伝統の枠にとらわれず、家庭でも実践できる日本料理を提案し続けてきた料理人です。今回のお話からは、その柔軟な発想の背景にある料理への向き合い方や、長年培ってきた料理哲学を知ることができました。
 ドラマの料理は、画面に映るのはほんの数秒でも、その一皿を完成させるまでには多くの時間と工夫が必要です。料理を「おいしく作る」だけではなく、素材の持ち味や時代背景、さらには俳優の演技にまで目を配る。料理監修という仕事の奥深さが伝わる勉強会となりました。

■「素材を超えない味」を表現する
 ドラマの料理については、監督の中江裕司さんと「どのような料理を出したいのか」を話し合い、互いのイメージをすり合わせながら決めていったそうです。撮影では、一品の料理を最もおいしく見せるために、場所を変えながら時間をかけて撮影することもあります。
例えば、吉田茂(柄本明)に「鮎の塩焼き」を出す場面では、「鮎を焼く」「焼き汁がしたたる」「食べる」というシーンをそれぞれ別の場所で撮影。ドラマでは数秒の場面でも、撮影には何時間もかかったといいます。その際、野﨑さんが特に気を配ったのが、魯山人の「素材を大切にする」という姿勢を、いかに映像で伝えるかということでした。
 野﨑さん自身が長年追求してきたのが、「素材を超えない味」です。魯山人の料理哲学とも重なるこの考え方が、ドラマの料理監修という仕事にも自然につながっていました。
 一方で、思うようにいかなかった料理もあったそうです。「ずいきの煮物」を真っ白に仕上げたかったものの、撮影時期がずれたことで適した食材が揃わず、仕上がりの色が悪くなってしまったことを残念そうに振り返りました。
 そして、ドラマの料理監修を通じて、野﨑さん自身があらためて実感したこととして挙げたのが、
「良い料理は、一番短い距離で料理をするということ。」
という言葉でした。これは魯山人が大切にした料理哲学であると同時に、野﨑さんが長年、料理と向き合う中で大切にしてきた考えでもあります。

■「鬼平犯科帳」と時代考証
 時代劇の料理監修では、料理そのものだけでなく、時代考証も重要になります。例えば、「湯豆腐」に使う鍋一つをとっても、当時のものを再現するのは容易ではありません。また、現在では一般的な「白菜の漬物」も、江戸時代の設定では使うことができないそうです。
 一方で、江戸時代にはすでにパクチーやバジルが薬味として使われていたため、時代設定に合わせて使用できる食材もあるとのこと。
 こうした食文化の知識を支えているのが、野﨑さんがこれまで座右の書として読み込んできた、多田鉄之助(食味評論家)や川上行蔵(食物史学者)らの著書です。
 料理人としての経験だけでなく、食の歴史や文化を学び続けてきたことが、こうしたドラマの仕事にも生かされていることがうかがえました。

■ふるさとの味が宝物
 福島県出身の野﨑さんは、採れたての野菜を小さい頃から食べて育ちました。家庭の味は薄味だったといいます。料理の道に進むきっかけとなったのは、病気を患った姉を食事で治したいという思いでした。そのために都内の栄養専門学校へ進学。卒業後は、和食店やホテルの和食部門、割烹店などで研鑽を積み、広尾の人気日本料理店「分とく山」の料理長を務めました。カウンターでお客さんと向き合いながら料理を提供するスタイルが評判を呼び、伝統の枠にとらわれない調理法でも注目を集めました。
 3年前に料理長を勇退した現在は、日本各地の産地に招かれ、料理講習会などで精力的に活動されています。各地を訪ねる中で、野﨑さんが強く感じているのが「地方には宝物がある」ということです。
 例えば高知では、鯖の新鮮さとおいしさに驚いたといいます。一方で、そうした地域の食材が安価に取引されている現実にも直面しています。地域にある食材の価値を見いだし、その商品価値を高めることに力を注ぎたい――。その思いが、現在の活動の原動力になっているそうです。

■日本料理の未来へ
 最後に、これからの日本料理についても語っていただきました。
野﨑さんは、日本料理が「陰陽五行」や「花鳥風月」を大切にしてきた食文化であることを挙げ、日本料理には、料理を通して暦や季節を表現する豊かさがあると話されました。
長い料理人人生を通して培ってきた経験から語られる言葉には、日本料理を単なる調理技術としてではなく、暮らしや季節、自然と結びついた文化として捉える視点がありました。

■料理は、演技にも奥行きを与える
 会場からは、「ドラマの料理では、撮影のために作り直すご苦労もあるのではないか」という質問がありました。これに対して野﨑さんは、
「香りを大切にして作り直しています。役者さんがその香りをかぐことで、演技に奥行きがでるんです。」
と答えられました。料理は、映像に映る「もの」だけではありません。香りや温度、音、そこにいる人の感覚まで含めて、物語の世界をつくっていく。

 今回の勉強会では、料理がドラマの脇役として存在するのではなく、登場人物の感情や演技を支え、物語そのものに奥行きを与える存在であることを知ることができました。同時に、「素材を超えない味」という野﨑さんの言葉に象徴されるように、料理人が素材と向き合い、歴史や季節、土地、人の暮らしを見つめ続けることの大切さも感じる時間となりました。
 食を伝える私たちにとっても、多くの示唆をいただいた勉強会でした。

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