国産チーズは日本酪農の救世主になるか?
【2023年度第4回勉強会】

・演 題:国産チーズは日本酪農の救世主になるか?
・日 時:2023年8月22日(火)19時~20時30分
・講 師:原田英男氏(畜産環境整備機構副理事長)
・進 行:大森亜紀
・参加者:会場参加17名、オンライン参加48名
・文 責:大森亜紀
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全国で増えているナチュラルチーズの工房を巡り、ファンとして情報を発信している農林水産省の元畜産部長で畜産環境整備機構副理事長の原田英男氏に、チーズ生産の現状や日本の酪農政策について話してもらった。

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国産ナチュラルチーズの工房が増えて340ぐらいあるといわれている。そのうち約100工房を訪ねて、200製品ぐらいを食べている。世界的に評価を獲得するチーズも続々登場しているが、その生産基盤となる酪農の現場は疲れている。国産チーズをのばして、酪農経営が努力しながら継続していける仕組みについて一緒に考えたい。

チーズの作り手を考えた時に、家畜を飼って作る農場製の「フェルミエ」、生乳を買って手作りする工房製「アルティザナル」、日本ではほとんどないがフランスではGIの担い手となっている共同酪農場製「レティエ」、それと工場製に分けられる。生産量を考えると、日本は大メーカーの工場製が主体だ。

生産されているチーズは、モッツアレラやクリームといった「フレッシュ」系、カマンベールの「白カビ」系、セミハード系が中心で、青カビやウォッシュなどは少ない。国産のナチュラルチーズは品質向上が著しく、42か国から4400点以上のチーズが出品されたWorld Cheese Awards 2022では、日本から24工房が34品を出品し、半数を超えるチーズが受賞し、中にはスーパーゴールドやゴールドを受賞した工房もあった。世界で認められる水準になっている。

ただ、スモールビジネスの工房ばかりで、量が少なく消費者の手に届きにくい。生産量を増やすと品質が安定しないところもある。少量多品種で原料はほぼホルスタインだったが、最近ではヤギなども登場。工房ごとのチーズはあるが、地域のGI取得がなかなかできていないという課題もある。北海道・十勝で六つのチーズ工房が「十勝品質事業協同組合」を作り、共同で熟成をする取り組みを始め、十勝ラクレットモールウォッシュとして、今年の3月にチーズで初のGIを取得するなど新しい動きも出ている。

酪農とチーズ、乳製品との関係を考えると、生乳は七変化する生産物だ。殺菌する前は「生乳」とよび、大きく分けて、「飲用牛乳」、脱脂粉乳とバター、チーズに加工されていく。チーズは最終形態で、その前に戻すことはできないが、脱脂粉乳とバターはあわせて水に溶かすと加工乳になる。ただ、加工乳が増えすぎると、飲用牛乳にも影響するので、国がバターや脱脂粉乳の輸入を制限しているという背景がある。

酪農家が受け取る乳価の平均値「総合乳価」は、令和2年からは新型コロナの影響で減っている。飲用に回るほど、総合乳価は上がるが、加工乳に回ったために減って手取りが減った。酪農家が販売する牛の個体販売価格も下がっている。

一方で、配合飼料価格は、トウモロコシ価格の上昇やウクライナ侵攻で世界の穀物相場があがった上に、円安もあって、現在は前代未聞、過去最高値になっている。令和元年と5年を比べると、餌代だけで1リットルあたり16円あがっていると農水省が発表した。本来なら1リットルあたり121円あがっていなければいけないのに、全然足りていない。

酪農個数は都府県も北海道も減り続けている。平成30年と令和5年を比べると、北海道では6140戸から5380戸(12%減)、都府県は9540戸から7220戸(25%減)だ。生乳生産は北海道だのみだ。

国は適正な価格転嫁で消費者に負担をしてもらうというが、値上げで需要が減った場合、どうセーフティーネットを作るのか。食べる人に負担してもらうには、国土を維持するなどの存在意義を示す必要もある。

チーズは計画的に作るもので、貯めることもできない。いまやミルクは食べる時代、チーズの時代になっているが、実は日本の酪農政策の中ではチーズは半端な位置づけだ。国は、飲用牛乳で需給バランスが保たれていることを前提に、バターと脱脂粉乳で需給調整してきた。加工乳への補給金補填で酪農全体を支え切れるのか限界に来ているのに、国が酪農家にどうしてほしいのかメッセージが見えない。

チーズ生産を主体とした酪農・農業の維持・拡大するには、乳価と補給金でチーズを作るインセンティブがないと難しい。需給均衡の前提が崩れている中で、将来のビジョンを見据えた情報交換の場が必要だ。

講演のあとには、現在の国の方針への疑問や、酪農の経営基盤の現状について、チーズの安全性などについての議論が交わされた。

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