「放射線照射食品の問題点」の報告

國學院大學経済学部教授 久保田祐子氏

放射線照射食品(照射食品)とは

 放射線の食品照射は、もともと1952年ごろからアメリカで原子力の平和利用という形で行なわれ始めたものです。はじめは軍用食料品として開発がすすめられ、次第にスパイス、生鮮野菜と一般へも広まっていきました。1986年、アメリカで大きく問題となり、 1994年には同じくアメリカで、照射イチゴの販売開始に際し、消費者から反対運動から起こっています。このような相次ぐ反対の動きにもかかわらず、アメリカでは、肉類についても、1985年に豚肉、1990年に鶏肉、1997年に牛肉への照射が認可されています。
 食品への放射線照射は、殺菌、殺虫のために行なわれるものです。問題とされるのは、放射線照射によって生成される物質(放射線照射生成物)が有害なのではないかという疑いがもたれる点です。実際にラットの研究で卵巣の重量に変化が見られたり、死亡率が増加したという結果があります。さらに懸念されることは、照射食品は、食品添加物や残留農薬の問題とは異なり、過去に照射が行なわれた食品かどうかという検知法がないということです。
 生鮮食品だけでなく、冷蔵、冷凍食品にも適用できるということ、食品が長持ちするということで、放射の効力は万能のように思われがちです。しかし実際には、放射による殺菌、殺虫の効力はその場限りであり、たとえば、照射のあとに再び虫がつくということもあり得ます。

わが国における食品照射問題

 日本では、1967年科学技術庁の原子力委員会が、「原子炉の多目的利用」の一環として、食品照射の開発研究を始めました。このとき、研究されたのは馬鈴薯、玉ネギ、米、小麦、水産練り製品、ウインナーソーセージ、みかんの7品目です。このうち、1972年、馬鈴薯の放射線照射が厚生省によって認可されました。1974年、北海道の士幌町農協で、農林水産省の補助事業として、馬鈴薯の照射が始まります。1977年から78年にかけて消費者からはボイコット運動が起こり、東京都では学校給食に使わないようになるなどの結果がみられ、さらに、1978年、ベビーフードの材料の粉末野菜に照射食品が使われていたことが発覚します。照射食品の容器包装には、その旨を表示することになっていますが、実際には、消費者の目に届く範囲での表示はされていません。1992年、厚生省は小分けした容器包装にも表示を徹底するよう通知しています。
 2000年12月には、日本スパイス協会が厚生省へ香辛料94品目の照射の認可を要請しています。
 現在は、照射の危険性が指摘されているものの、実際に放射線照射が行なわれた食品かどうかを調査する方法は表示に頼る以外になく、照射の有無を断言することはできません。今後は、放射線照射の危険性の調査はもちろんのこと、輸入品に対する調査を含めた表示の徹底が、なお一層の問題となるでしょう。

(まとめ:原 志陽子)

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