・演 題:幸福度は口の機能で決まる
〜子どもの口から見えてくる私たちの未来〜
・日 時:2026年8月31日(月)19時~20時30分
・講 師:中野 崇 氏(医療法人Bright Beans 豊橋キッズデンタルクリニック 理事長・院長)
・進 行:安武 郁子
・参加者:会場参加15名、オンライン参加47名
・文 責:安武 郁子
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◾️「食べる力」は、自然に育つものなのか?
「よく噛んで食べましょう」私たちは子どもの頃から、繰り返しこの言葉を聞いてきました。しかし、そもそも「噛む力」は、どのように育つのか?
今回の勉強会では、小児歯科医として子どもたちの口腔機能の育成に取り組む中野崇先生をお迎えし、歯科の現場から見えてきた子どもたちの口の現状と、「食べる力」について学びました。
講演で紹介されたのは、口の機能だけでなく、呼吸や姿勢、身体の発達、日々の食事の経験に目を向けるという、幅広い視点でした。
◾️口の機能は、全身の発達とつながっている
中野先生は、口腔機能の発達を考えるうえで、鼻呼吸や舌の働き、全身の運動発達に目を向けることの重要性を紹介してくださいました。
口を閉じて鼻で呼吸することや、舌を適切に動かすことは、食べる機能だけでなく、顎や歯並びの発育とも関係しています。
また、参加者からも印象に残ったという感想が寄せられたのが「姿勢」の大切さです。
食事中の姿勢は、単なるしつけの問題ではありません。身体が安定していることは、食べ物を口に運び、噛み、飲み込む動作を支える土台になります。
講演では、フォークの持ち手を工夫することで、子どもが食べ物を口へ運びやすくなり、姿勢の改善にもつながる事例が紹介されました。
「食具は姿勢を変える!」
スライドに示されたこの言葉からも、口腔機能と身体の発達が密接につながっていることが伝わってきました。
◾️離乳食は「食べ方」を学ぶ時間
赤ちゃんは、最初から上手に噛んだり、飲み込んだりできるわけではありません。食べ物を口に取り込み、舌を動かし、押しつぶし、飲み込む。こうした動きを、食事の経験を通して身につけていきます。
そのため、離乳食では食材の種類や栄養だけでなく、食べ物の形態や一口量、口への運び方など、発達段階に応じた介助が大切になります。
例えば、スプーンを使う際には、赤ちゃんが自分の上唇を使って食べ物を取り込めるようにすることが重要です。
食べ物を口にため込んだり、丸飲みしたりする場合も、食べる機能の発達や介助の方法を見直す必要があります。
食べやすくしてあげることが、必ずしも食べる力を育てることにつながるとは限らない。
離乳食を、栄養を与える時間であると同時に、食べる機能を育む学習の機会として捉えることの大切さを学びました。
◾️「自分で食べる」経験が育むもの
手づかみ食べや、食べ物を前歯でかじり取る経験についても紹介されました。
食べ物を目で見て、手を伸ばして触れ、つかみ、口へ運ぶ。こうした動作を通して、子どもはさまざまな感覚を働かせ、身体の動きと食べる動作を結びつけていきます。
また、自分でかじり取ることは、一口量を調整し、口の中で食べ物を処理する経験にもつながります。
大人が食べやすい大きさに切り、口へ運んであげれば、食事はスムーズに進むかもしれません。しかし、子ども自身が試行錯誤しながら身につける機会まで、大人が代わってしまっていないでしょうか。
子どもの発達に応じて、自ら食べる経験を重ねられるよう支えることの重要性が示されました。
◾️子どもの「育ち」と高齢者の「衰え」
講演では、子どもの口腔機能の発達と、高齢者の口腔機能の低下を対比したスライドも示されました。子どもは成長とともに口の機能を獲得していきます。一方、高齢者は加齢や疾病などによって、その機能が失われていくことがあります。
どちらも、食べ物を噛み、飲み込むために必要な口の機能という共通の視点から考えることができます。歯があることと、十分に食べられることは、必ずしも同じではありません。
子どもの頃から食べる機能を育み、成人になってからも維持し、高齢になっても自分の口で食べ続けられるようにする。
口腔機能を生涯にわたって捉えることの重要性を、改めて考える機会となりました。

◾️歯科医院から広がる、新しい食育のかたち
中野先生が院長を務める豊橋キッズデンタルクリニックでは、歯科医師や歯科衛生士だけでなく、保育士、管理栄養士など、多様な専門職が連携しています。離乳食教室や親子教室、姿勢教室など、診療室の中だけにとどまらない取り組みも行われています。
講演の終盤には、中野先生が大切にしている「人生の達人(マスター・オブ・ライフ)」という考え方が紹介されました。
目指すのは、単にむし歯のない子どもを育てることではなく、子どもたちが自分自身の健康を守る知識や習慣を身につけ、自分らしい人生を歩んでいくこと。
歯科医院を、むし歯を治す場所から、生涯の健康づくりを学ぶ場所へ。
中野先生の取り組みは、歯科医療が子どもたちの健やかな成長を支える場にもなり得ることを示していました。
◾️「何を食べるか」だけでなく、「どう食べるか」
人生の最期まで自分の口で食べる喜びを守るために、口腔機能の大切さを歯科だけの問題にとどめず、食育に関わるさまざまな分野で共有していく必要があります。
今回の勉強会は、子どもたちの口の現状から、私たち自身の食生活、そして未来の食育のあり方を考える貴重な機会となりました。
こうした、子どもたちの健やかな成長を支え、「食べる力」を育む歯科医院が、全国に広がることを願っています。


