2050年のキッチン、未来の食の風景を考える
【第32回公開シンポジウム報告】

【テーマ】「2050年のキッチン、未来の食の風景を考える」
【日 時】2022年10月27日(木) 14:30~18:00
【場 所】東京大学農学部 フードサイエンス棟 中島董一郎記念ホール
【主 催】食生活ジャーナリストの会(JFJ)
【参加者】76名(オンライン参加を含む)

 第32回公開シンポジウムは、食の未来を「台所」を通して、さまざまな視点から考えた。新型コロナ感染拡大で人と食事を共にする機会が減った今だからこそ、誰とどこでどんな形で何を食べるのか、台所の形が改めて問われている。単身・共働き世帯の増加や、フードテックの進化は台所をどう変えるのか。海外との比較も交えて、議論が行われた。主なトピックを紹介する。

【プログラム】
司会:田尻泉(JFJ幹事、PRコーディネーター・ライター)
進行:大森亜紀(JFJ幹事、読売新聞編集委員)

【開会挨拶】
畑中 三応子(JFJ代表幹事)

【基調講演】
山﨑 和彦(武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科教授)
「未来のキッチンのビジョン」


 山﨑氏はデザインの観点から「食」や「台所」を捉えなおしたプロジェクトや研究を紹介。「IKEA」が提案する未来の食事、野菜を自分自身で作る「PLANTIO」といった事例のほか、研究室で取り組んでいる「大人の創造性を磨く場」としてのキッチンや、笑顔をキーワードにした「キッチンの未来ビジョンマップ」など、既成概念にとらわれず、新たな体験を生む台所の多彩な形を提案した。

【パネルディスカッション】
◉矢内 真由美(NHKエデュケーショナル 生活グループ チーフ・プロデューサー)
「『きょうの料理』が見つめてきた日本の食卓 ~ほんの一例~」


*矢内氏の講演資料

◉岡根谷 実里(世界の台所探検家)
「キッチンは、料理をするための場か?ー世界各地のキッチン探訪ー」


*岡根谷氏の講演資料

◉住 朋享(株式会社シグマクシス プリンシパル)
「100年に1度の大変革。フードテックからみる未来の食の風景」


*住氏の講演資料

 パネルディスカッションでは、NHKで「きょうの料理」を担当する矢内真由美氏が、1953年から続く長寿番組で紹介してきた料理や伝え方の変化を紹介した。「台所の作業は平凡だが、料理研究家の辰巳芳子さんに『平凡を重ねると非凡になる』と言われた言葉が胸に響いている。その作業を面倒と思うか、楽しいと思うかはひとり一人の価値観にかかっているが、創造性を発揮できる台所という場を大切にしていってほしいと思う」
 岡根谷実里氏は、60か国・地域以上にのぼる台所訪問の体験を踏まえ、「立って働く」「ダイニングキッチン」「画一的な間取り」が標準的な日本の台所を問い直した。世界には近所の人としゃべりながら料理を作ったり、家の外にはみだしたりする台所があり、日本でも、「過ごす、楽しむ」に重点を置いたり、単身世帯にあった食べる場の設計など「多様化する社会において、それぞれにとっての理想の台所が生まれきてよいのではないか」と提案した。
 住朋享氏は、国内外のフードテックの最新事情を通じて、日本の食の未来を考察。家電と連動して進化するレシピや、データを活用した個人の好みや環境にあわせた多彩なサービスなど、世界中で新たな価値を創造するフードイノベーション生まれていると紹介。その上で、日本では料理を楽しいと考える人の割合が少なく、イノベーションを阻害する要因となっていると指摘した。
 後半は、会場やオンラインでの視聴者も交えてのディスカッションが行われ、社会の変化とメディアの責任や、各パネリストが考える台所の未来像などを話し合った。


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