第27回公開シンポジウム「2020年に向けた日本の食のあるべき姿」の報告

【テーマ】「2020年に向けた日本の食のあるべき姿」
【日 時】2017年11月8日(水) 13:30~17:30
【場 所】東京大学農学部 弥生講堂一条ホール 
      東京都文京区弥生1-1-1(東京メトロ南北線東大前駅より徒歩5分)
【主 催】食生活ジャーナリストの会(JFJ)
【参加費】一般3,000円、学生1,000円(JFJ会員は無料)
*最終的な参加者は約80名でした。

内閣官房東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局 参事官の勝野美江氏より 『2020年に向けた日本の食文化発信』と題した基調講演をいただいた後、3人の専門家よりそれぞれのテーマに沿ったご講演をいただきました。パネルディスカッションでは会場の参加者からのご質問に対して活発な意見交換がなされました。

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【当日配布のプログラム】

  
<総合司会>高橋 仁子(JFJ会員)

<開会あいさつ>小島 正美(JFJ代表幹事)
    
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<基調講演>
  
『2020年に向けた日本の食文化発信』
    勝野 美江(内閣官房東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局 参事官)
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 2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピック競技大会では、世界から訪れる選手や観光客などに日本の魅力ある食材・料理を食べてもらったり、食文化を体験してもらうことが重要である。大会関係施設内の選手村等に食材を提供するには食材調達基準をクリアする必要があり、オールジャパンでの対応が求められる。一方、事前合宿等の受入を行うホストタウンでは、海外の選手等に地域の食文化を体験してもらうなどの取組が期待される。また、大会中、前後に日本を訪問する外国人観光客向けには、日本の食文化に関する情報発信を有効に行っていく必要がある。関係者が連携し、2020年以降のレガシーとなるような取組を進めていくことが重要である。

<ご講演>

  『食品安全の世界潮流と日本の課題』
    岸  克樹(イオンリテール㈱グループ品質管理部部長/GFSI理事 兼
            日本ローカルグループ議長)
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 GFSI(グローバル・フード・セーフティ・イニシアティブ)は、多国籍に事業展開する製造業、流通業等からなるアライアンスで、会員企業の売上高総計は2.5兆ユーロに上る。食品安全マネジメントシステムのグローバルハーモナイゼーションにおけるハブ的役割を担っており、欧米中の各国政府や、ISO、Codex等の国際機関とも協働している。我が国は、本潮流に乗り遅れているだけでなく、流通各社の二者監査、自治体や各種業界団体の主催するGAP、HACCP等、マネジメントシステムが玉石混交の状況で、国内調和さえ不完全である。今後、東京オリパラ、HACCP義務化、国産品輸出強化等を背景に、急激に国際調和の必要性に迫られている我が国の課題について論じる。

  『植物共生科学から考える農業の現状と展望』
    池田 成志(農研機構北海道農業研究センター 芽室研究拠点
            大規模畑作研究領域 上級研究員)
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 現在の化学農薬や化学肥料の大量消費に強く依存する日本の資源浪費的な農業生産体系は人や環境に対する安全性、植物遺伝資源や肥料資源の枯渇、輸入農産物との競争激化等の問題から大変革を行う必要があると思われる。これらの問題解決のため農耕地生態系における生物間相互作用を解明し、それらの知見を活用した作物や微生物、天敵等の生物機能を最大限に活用した技術開発を行うことが化学物質やエネルギーの投入を最小限にした持続的な農業生産体系の構築につながると考えられる。
 本講演では特に、上述の生物間相互作用における微生物や光のような「目に見えないもの」(多様な環境因子)を意識することの農業・食品分野における重要性と今後の可能性を紹介したい。

  『ロンドン五輪から学んだ教訓とこれから先に向けて』
    鬼沢 良子(NPO法人持続可能な社会をつくる元気ネット 事務局長)
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 環境に配慮した2012年ロンドン大会に学び、日本ならではの取組に挑戦し、その後のレガシーにつなげたい。ロンドンではできなかった「メダルの小型家電金属利用」「食品ロス削減」「聖火のバイオガス利用」「徹底した紙の資源化」等、日本の技術力と分別意識の高さ、開催期間までの国民参加の意識高揚への道のりがいずれも成功のカギとなる。選手村や大会会場のみではなく、各地のキャンプ地でも様々な取組が展開されることを期待したい。

<パネルディスカッション>
   パネラー:上記演者全員、進行:山崎 毅(JFJ幹事)
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パネルディスカッションでは、各演者に対するご質問を質問票に書いて提出していただき、ひとつずつパネラーが回答していただく形式をとった。実際の質疑応答の事例をいくつかご紹介する:

Q1 :GAPなどの食品安全規格をクリアするために投資しても、価格などそれ以外の要因でオリパラに採用されないことを危惧するが・・

A(勝野氏):オリパラの食材採用は、いまだ採用が決まっていないケータリング業者が決定することなので、現段階で採用・不採用の条件を示すことはできない。やはりオリパラ採用を最終目標とするのではなく、食材を持続可能性など国際基準にもっていくことで、ビジネスのグローバル展開や国内でもイオンさんなどに採用されることを目指す広い視野をもつことで、結果としてオリパラの食材採用条件にはまるのがよいのでは。

Q2 :GFSIの認証領域がわかりにくいのだが、HACCPやGAPの中でもいろいろあって重複する部分があってわかりにくい。

(岸氏):整理すると、HACCPはCodexが決めた食品安全規格のコンポーネント、GMPは衛生管理ができていること。HACCPは製造プロセスの安全マネジメントでありGFSIの要求事項の一部となる。GAPは一次産品の安全規格であり、GFSIはGlobal GAPを承認しているが、J-GAPやAsia GAPは東京五輪が認めているものの、GFSIに関しては年内の承認をめざしているところである。

Q3 :日本で共生微生物の研究にもっと予算が振り分けられるには、行政や企業がどうしたらよいのか?
また、オーガニック化促進がブランド化に最重要事項とお考えか?

A(池田氏):地方自治体の組織構造の改善が望まれるところだ(お金/生活がからむと難しいのが現状)。
あと我々からも共生微生物の研究がもっと食品に応用可能な夢のあるものだとPRしないといけないと思う。
欧米のオーガニック手法をそのまま日本に適用すると高温多湿の日本の農業に合わないので改革が必要。実際に北海道・十勝あたりの有機農業は生産規模も品質もかなり良質になっているので、ぜひ視察にきてほしい。

Q4 :ロンドンオリンピックで食品ロスができなかった原因は何か?東京オリパラでは食品ロス削減のコンテストをしたらよいのでは?

ロンドン五輪では、食品ロスを大幅に減らす対策まで手がまわらなかったようだ。どんなゴミがどのくらい出るというような調査はかなりやっていた。東京オリパラでは、選手村だけがターゲットではなく外国人観光客が訪れる地域全体でそのようなムーブメントが起こっており、コンテストもよいが、まずは飲食店のエコマーク認定などの動きは始まっている。

そのほか2020東京オリパラにむけての日本の食のあり方、食材調達コード/五輪スポンサー以外の食材提供ルート、海外(中国など)の食品安全規格に関する具体的エピソード、植物工場と天然栽培やオーガニックの違い、持続可能性に関する市民合意のあり方などいくつかのポイントについて、講師の先生方よりわかりやすい回答をいただきながら、活発な議論が展開された。

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<講師を囲んで懇親会>
   @バー・アブルボア(東大農学部内) 
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<総括:小島正美(JFJ代表幹事)>

東京オリパラに向けて、日本の食のあり方や食品の衛生管理面で国際化が進むのは、歓迎すべき点も多いし、参考になった。ただ、GAPやHACCPのように欧米流の品質衛生管理が絶対的な標準で、その標準的なやり方をもっと日本はまねるべきだといった「西洋流の上から目線」にはやや抵抗感をもった。おそらくそれは非科学的と言われそうだが、なんでもかんでも西洋のまねをしなくても、日本は独自のやり方で食の安全を保ってきた面もあるので、その特色をもっと西洋の人たちに訴えられないものかと感じた。

以上、ご不明の点がございましたらJFJ事務局までお問い合わせください。

⇒ JFJ事務局:メール jfj-shoku@t-net.ne.jp 電話 042-554-3887

文責:JFJ幹事 山崎 毅

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