国産ジビエの現状、課題、そして魅力
【2022年度第1回勉強会】

・演 題:国産ジビエの現状、課題、そして魅力
・日 時:2022年5月11日(水)19時~20時30分
・講 師:藤木徳彦(オーベルジュ・エスポワール オーナーシェフ、日本ジビエ振興協会代表理事)
・進 行:小山伸二
・参加者:会場参加9名/オンライン参加19名
・文 責:畑中三応子
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 第6回食生活ジャーナリスト大賞(食文化部門)を受賞した藤木徳彦さんを講師に招き、90分を4パートに分けて藤木さんのプレゼンテーションのあと、事前に募った参加者からの質問に答えてもらいながら理解を深めていくという、双方向のスタイルで行った。
 狩猟やジビエ利活用の現場を熟知し、ガイドラインと認証制度策定までの一部始終にかかわってきた藤木さんならではの具体的かつ貴重なお話をたくさん聞くことができた。

■パート1 「衛生管理に関するガイドライン」ができるまで
 長野県が2000年代にジビエの衛生ガイドラインをつくったことを皮切りに、いくつかの自治体が続き、2014年ついに厚労省が「衛生管理に関するガイドライン」を策定。これでジビエはやっと食肉として正式に認められたことになる。
 それ以前は「山肉」などと呼ばれ、たとえば丹波の牡丹鍋のように、地域の食文化として根づいてはいたが、肉は猟師の自家消費が中心で、飲食店は猟師から直接仕入れていた。衛生に対する意識は低く、生食が普通に行われていた。

■パート2 安心安全を見える化した「国産ジビエ認証制度」
 狩猟後のジビエは、血抜きまではその場で行ってよいが、内臓除去〜解体〜肉にする作業はジビエ専用の処理施設で行わなくてはならない。現在、全国で約700ある処理施設のうち、ガイドラインを遵守している施設を認証するのが「国産ジビエ認証制度」である。
 厚労省のガイドラインは「豚肉より衛生的」といわれるほど厳しい内容。現在、700カ所のうち認証施設は29カ所のみで、これから増やしていくのが課題である。認証施設の肉は認証マークを表示でき、その肉を使用する飲食店にとってもマークを出して「安全な肉を作っている」ことをアピールできるのが大きなメリットになるだろう。

■パート3 ジビエ肉の衛生・調理・栄養について
 おいしいジビエ肉にするためには、捕獲後に素早く血抜きし、内臓除去までを1時間以内で行い、処理することが必要。そのうえで、安全でおいしく食べるためには、適切な加熱が求められる。カルパッチョ、たたきなどで提供する飲食店がまだあるが、ジビエ肉の生食は厳禁である。
 ウイルス、細菌、寄生虫を完全に死滅させるためには「肉の中心温度75℃1分、あるいはそれと同等の効果のある温度と時間」で加熱しなければならない。しかし、75℃1分では肉がパサパサになってしまう。そこで辻調理師専門学校との共同実験の結果、「65℃15分」または「66℃11分」の加熱で、ウイルス、細菌、寄生虫が死滅し、なおかつしっとりおいしい仕上がりになることが割り出せた。この数字はジビエ肉に限らず家畜肉にも適用する。

■パート4 国産ジビエの展望
 ジビエを一時のブームに終わらせず、定着させていきたい。現在は飲食店で提供するのが中心だが、次のステップは中食のお惣菜、ゆくゆくはスーパーに生のジビエ肉が並び、家庭料理に使われるようになるのが目標。ジビエは自然のものなので家畜のような安定供給は難しく、食肉大手でジビエを導入している企業はまだないが、小回りがきく地域のスーパーではすでに販売している店もある。捕獲したジビエの大半が食肉として活用され、家庭の食卓に根づくことをめざして、これからも取り組んでいきたい。

 藤木さんは最後に「ジャーナリストの方々にはぜひ、長野県まで狩猟と処理解体の視察に来てほしい」と提案してくれた。ぜひ実現したい。

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