「牛乳」の事例を通して『 食の疑似科学を考える 』

・演 題:「牛乳」の事例を通して『 食の疑似科学を考える 』
・講 師:山本輝太郎氏
   (明治大学科学コミュニケーション研究所 研究員 明治大学情報コミュニケーション学部兼任講師)
・進 行:監物南美(食生活ジャーナリストの会・幹事)
・参加者:オンライン開催 73名
・文 責:監物南美
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 一般の週刊誌やネット媒体等を中心に、特定の食品について根拠の曖昧な食の有害情報や効能情報がくり返し見られ、情報の真偽を検証するようなメディアリテラシーや自ら科学的に判断するためのサイエンスリテラシーの向上が求められている。そこで、情報コミュニケーション学がご専門の山本輝太郎氏を講師にお招きし、一般社団法人Jミルクとの共催で勉強会を開催した。講演の前に、Jミルクから、2021年4月から5月にかけての牛乳に関する批判的な報道とその影響の紹介があり、山本氏には「牛乳」を事例として解説していただいた。

【講演要旨】
 「食の疑似科学」というが、じつは科学と擬似科学との境界線は、1本の線で引けるものではない。しかし、その評定は山本氏らのとり組みによってこの数年で可能になってきたという。

1)4つの観点の10条件による科学性判定の取り組み
 山本氏らは科学哲学や科学社会学の知見に基づき枠組みを設定し、4観点10条件による科学や擬似科学の段階を判定するしくみを作った(スライド1)。これまでの牛乳有害説をこの4観点10条件にあてはめてみたところ、理論の観点もデータの観点も全体的に科学性が認められず、「牛乳は有害であると言うことは擬似科学だ」と評定できたという。

2)研究デザインに基づく「エビデンスの信用度判定」
 4観点のうち、データの観点は、研究デザインに基づくエビデンスレベルで信用度がある程度判定できる。山本氏は、スライド2 の各エビデンスレベルの利点と欠点を解説したうえで、牛乳有害説を支持するデータが、エビデンスレベルの低い根拠の弱いものが多いことを紹介した。一方で、支持しないデータはエビデンスレベルの高いものが多かったという。

3)心の偏りに注意 「先入観」は評価を変える
 科学リテラシーの向上というときにもう一つ忘れてはならないのが、「ヒトの心」による影響である。まず、先入観が評価に影響を与えるが、その事例としては、ゲノム編集をとり上げた。ゲノム編集について教育をするとき、遺伝子組換えに対して持っている先入観が、ゲノム編集の学習に影響するかどうかを山本氏がRCTで調べたところ、影響することがわかったという。また、スライド3左のように「遺伝子組換え技術と同じ」と印象づける教材と、スライド3右のように「遺伝子組換え技術と異なる」と印象づける教材を用意し、ゲノム編集のリスクとベネフィットについて学習してもらったところ、遺伝子組換えに否定的なイメージを持っている人は、後者の教材を使った場合にのみ、学習効果が見られたという。


 そのほか、架空のサプリメントの広告を用いて、カクテルパーティ効果についての紹介があった。人は自分ごととして興味がなければニセ情報を信じやすいことがこれまでの研究からわかっており、「真実バイアス」という言葉もある。人の判断のベースにあるのは感情であり、科学的データに感情が入り込みうるものは、取り扱い注意ということだ。

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 研究者も千差万別であり、科学者が擬似科学を言い出すこともある。しかし、4観点10条件にあてはめて科学的根拠の強弱を推し量り、心の偏りに注意することで、疑似科学情報はある程度区別が可能になる。

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