・演 題:国立健康・栄養研究所が目指す健康寿命の延伸~創立100周年を迎えて
・講 師:阿部圭一(あべけいいち)国立健康・栄養研究所 所長
・進 行:小島正美
・会 場:日比谷図書文化館4Fスタジオプラス小ホール・オンライン会議(Google Meet)同時開催
・参加者:51名
・文 責:監物南美

 国立健康・栄養研究所は今年創立100周年を迎える。これまでの歩みと今後の展望について、阿部圭一所長(現理事)が以下の4点から講演した。

<国立健康・栄養研究所が目指す健康寿命の延伸~創立100周年を迎えて:講演資料(PDF)>

1)栄養学の歴史と変遷と日本人の食

 国立健康・栄養研究所は、「栄養学の父」と呼ばれる佐伯矩博士が創設した世界で初めての栄養学の研究所である。過去には栄養失調(脚気、結核)の解決にあたり、その後は過剰の抑制すなわち肥満や生活習慣病、メタボの問題に取り組んできた。近年は若年女性のやせの問題や高齢者の栄養(たんぱく質)および活動不足など栄養の課題は複雑さが増している。そのような中、国立健康・栄養研究所では、資料(講演資料5)のような構成で新しい健康課題や技術革新にとり組み始めたという。
 一方で、日本人は、以前は、「ご飯が16杯必要」で大食いと思われており、「おかずも摂れば、6杯で済む(しかも経済的)」として、栄養改善が試みられたことを紹介。研究所では、国民健康・栄養調査の集計を執り行い、このような日本人の食生活がどう変わってきたかを観察してきた。この調査から、平成に入ってから魚介類が減り、肉類が増加していること、たんぱく質が少しずつ減り続け、脂質はまた増え始めたことなどを紹介した。和食のよさは食材の多様性と油を使わないことだとし、来年開催予定の東京栄養サミットでは和食のよさをあらためてまとめて発信したいと述べた。

2)健康長寿の考え方:メタボ・フレイル

 人生100年時代という考え方が示されて以来、健康に対する理解が大きく変わってきた。以前は「病気にならないこと」が重視され、そのために生活習慣病やメタボ予防が広く認知された。近年は、「健康に長生きする」ことが重視され、新たにフレイル(虚弱)予防が課題となっている。しかし、現在、メタボに比べてフレイルの認知度は低い。正しく認知されることが克服のための重要な一歩であるとし、メディアへの協力を仰いだ。
 なお、メタボ予防が太りすぎに注意なのに対し、フレイル予防では痩せすぎに注意が必要なため、とりすぎと不足のどちらに注意したらよいのかという混乱を招いている。これについては、生涯筋肉の維持、そのためには「たんぱく質栄養を考慮し、適度な運動を推奨」ということで、メタボおよびフレイルの統一メッセージになるとした。

3)プレシジョンヘルス&ニュートリション

 栄養課題の複雑さが増しているため、改善にあたり「バランスよく食べる」という言葉で片づけられがちである。さらにはこの言葉に終始してしまうために栄養のことが軽視されがちでもある。
 一方で、栄養学を取り巻く科学の進歩のスピードは増している。各種デバイスが開発され、多くの指標が経時的に測定できるようになり、私たちの健康データはビッグデータ化している。これらを解析し、その結果を各個人のデータと照らし合わせることで、栄養においてもプレシジョンアプローチが可能になってくる。行動変容をもたらすようなメッセージにもつながる。こうした解析を行うAI栄養研究が、今後革新的な健康寿命延伸をもたらすだろうと述べた。

4)災害栄養

 日本は災害大国であるが、災害時の健康維持の難しさが課題となっている。たとえば、東日本大震災直後は脳卒中罹患率(および数)が急激に増加した。また、発災後1年半で過体重者の割合が増えた。災害時の食・栄養問題は軽視されてきたが、災害栄養こそ日本が世界をリードすべきとし、研究所では避難所の健康・栄養課題を調査し、対策を講じる役割を果たす災害栄養の専門チームを立ち上げている。自治体、医師などとも連携し、新型コロナ対策においても、ホテル隔離者の栄養指導を皮切りに、健康・栄養面での対応方法を整備している。