「牛の肉とドライエイジングの現状と今後」

・講 師:山本謙治さん(農畜産物流通コンサルタント・JFJ会員)
・会 場:
(第一部) 渋谷区神宮前5-53-67・東京ウィメンズプラザ  第一会議室
(第二部) 港区西麻布3-17-25 カルネヤサノマンズ
・参加者:第一部42名・第二部34名
・文 責:大久保 朱夏

4月に開かれた総会後の懇親会で、会員の方から熱烈なリクエストがあった山本謙治氏によるドライエイジングビーフの勉強会を開催。第一部は講演、第二部は西麻布のレストランを貸し切りにして「食べる勉強会」を催し、ドライエイジドビーフをまさしく堪能しました。


          
■品種×えさ×育て方が牛の肉の味を決める
はじめに山本氏は牛の個体として味を決める要素になるのは「品種×えさ×育て方」だと解説します。牛肉も野菜と同じように品種が異なれば味に違いが出ます。
 たとえば国産牛と表示されているのは主に乳用種であるホルスタイン種かF1種、和牛とあるのは黒毛和種をはじめとする4種の肉専用種です。外国の品種であるアンガス種などは、特にパッケージに書いている場合もあります。
参加者に向けて「食べた肉の品種と月齢を記録し、味の評価を蓄積していくことが必要」というアドバイスがありました。
 
 えさには主に濃厚飼料を与えたグレインフェッド(穀物中心)、粗飼料を与えたグラスフェッド(草中心)がありただしどんな場合も粗飼料は一定量食べさせなければ牛の健康を害するため、粗飼料をまったく与えないことはありません。コーン中心のグレインフェッドで飼育するのが普通なのは日本とアメリカだけです。私たちが「おいしい」と感じるのは、食べ慣れたグレインフェッドをあたえているサシが入った牛肉。でも、世界的に主流なのはグラス中心の赤身肉であると山本氏は言います。

日本では国土が狭く、粗飼料の資源も輸入に頼っているためため放牧できず、牛舎内でほぼ一生牛を育てサシを入れていますが、これも海外ではみられないこと。特異な日本の牛肉文化を自覚することができました。


          
■ドライエイジドビーフとは何か?
 「品種×えさ×育て方」に、さらに熟成がかけ合わさり、牛肉の味になります。肉の熟成にはウエットエイジング(真空パック)と、空気に触れさせる(含気下)で行うドライエイジングの2種類。熟成肉の学術的な定義は「肉の内部で起こっている変化」とされ、肉の表面に起きる変化について科学的な裏づけはまだされていません。これは今後の動向が気になるところ。
 NYスタイルのドライエイジングの特徴は「温度が3~1度前後」「湿度は70~80%」「風をあてて熟成する」とされることが多いのですが、実は「水分活性値を引き下げ、腐敗しない環境下で微生物の働きによってフレーバーを生ずること」という点が重要であると力説していました。
 食肉の水分には栄養豊富で微生物が繁殖しやすい自由水と、たんぱく質と結合した結合水があります。風によって表面に引き出された自由水に繁殖する微生物(ある種のかび)を活用することによって、独特のナッツの香りが立ってくるのです。NYスタイルのドライエイジングとヨーロッパスタイルのドライエイジングは似ていますが、類型を整理してみると、その国の牛の性質に合わせた熟成方式が根づいているという点がとても興味深かったです。

■ドライエイジンドビーフの「ものさし」ができた
 第二部はカルネヤサノマンズを貸切にして開催。山本氏が「ここからが勉強会の本番です」と乾杯の発声で第二部「やまけんスペシャルコース」がスタートしました! 
 まずは目の前に運ばれた熟成した肉のふくよかな香りをかぎます。

同じホルスタインのサーロインを1本はドライエイジング(手前)に、もう1本はウエットエイジング(奥)にして同期間熟成し、食べ比べます。この勉強会のために2か月かけて静岡県富士宮市のさの萬さんが熟成してくれました。

焼き方も同じにしての食べ比べです。

手前がウエットエイジングで奥がドライエイジング。

第一部での説明とは違い、ウエットエイジングの状態がとてもよく予想を上回るおいしさです。
ドライエイジングはかみしめて食べると、味が引き出されてくるような感覚がありました。

皿の奥に加わったのが北海道の北十勝ファームの短角牛。
みずみずしいのに、ドライエイジング特有のナッツの香りが広がり、好きでした。

(写真上)ドライエイジドビーフの焼き方の秘訣を説明する高山いさ己シェフ。
(写真下)やまけんさんが持っているのは肉ではなく話題のアマゾンカカオ。デザートに使われました。

ドライエイジドビーフの「ものさし」ができた勉強会になりました。
台風13号の進路が心配される中での開催でしたが、沖縄や愛知から参加してくれた方も!
今回の肉を熟成してくれた静岡県富士宮市のさの萬さん、カルネヤサノマンズの皆様に感謝いたします。

■講師のブログと合わせてご覧ください。
やまけんの出張食い倒れ日記
https://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2018/08/29658.html

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