日本食・食文化の魅力を風土から捉え直す
      ~世界に発信するために~
【第33回公開シンポジウム報告】

【テーマ】「日本食・食文化の魅力を風土から捉え直す ~世界に発信するために~」
【日 時】2023年11月25日(土) 13:30~17:45、懇親会18:00~19:00
【場 所】東京大学農学部フードサイエンス棟中島董一郎記念ホール
(ハイブリッド:Zoom会議)
【主 催】食生活ジャーナリストの会(JFJ)
【参加者】74名(オンライン参加を含む)

 第33回公開シンポジウムは、「日本食・食文化の魅力を風土から捉え直す ~世界に発信するために~」をテーマに、美食地質学を提唱するマグマ学者・巽好幸氏による基調講演、日本料理店「てのしま」店主の林亮平氏によるビデオメッセージ、日本食の普及にかかわるテロワール&トラディションジャパンの二瓶徹氏、ぐるなびの家中みほ子氏、農林水産省の吉松亨氏の3人がさまざまな立場から取り組みを紹介した。主なトピックを紹介する。

【プログラム】
司会:吉田佳代(JFJ幹事、フリーランス編集者・ライター)
進行:大森亜紀(JFJ幹事、読売新聞編集委員)

【開会挨拶】
畑中 三応子(JFJ代表幹事)

基調講演:「日本列島からの恩恵、和食、美食地質学入門」
ジオリブ研究所所長・マグマ学者 巽好幸氏


和食が「ユネスコ無形文化遺産」に登録されて10年が過ぎた。なぜ和食は、地域によってここまで個性豊かな文化となり得たのか。その地域(日本列島)に特徴的な食材や料理を育む自然(風土)がいかに成立したか?その風土の中で、人々がどのように特有の食文化を育んだのか?地質学者である巽好幸先生は、提唱する「美食地質学」の視点から、日本列島のさまざまなおいしいもの(出汁、蕎麦、讃岐うどん、リアス式海岸、瀬戸内海の秘密、ズワイガニ、日本酒)を地震、地質学と関連付け、発祥のストーリーをユニークに紐解いた。
●講演の流れ
地震大国・火山大国ニッポン・・・日本のプレートを火山帯と地震から紐解く
和食の真髄「出汁」、その誕生秘話・・・変動帯とだしの関係、軟水硬水の世界分布と特性、軟水を育む山が高くなる理由
蕎麦と火山の隠れた関係・・・火山プレートに沿って蕎麦の山地がある
讃岐うどん成立の背景
豊かな海、リアス式海岸を造った海溝型巨大地震・・・森の恵みが海を育む、ブルターニュとの類似性
豊饒の海瀬戸内の海は地盤のシワ・・・高速潮流と魚介の関連性、直下地震の巣の産物
日本海の拡大とズワイガニ・・・日本海の弓形の正体は海ではなく地盤、深海と沖合とカニ
和食の名脇役(主役?)日本酒・・・花崗岩が日本酒を生み出した

ビデオメッセージ「つなぐ和食の未来」てのしま 林亮平氏

東京の青山で日本料理店「てのしま」を経営する林亮平氏からは、氏のルーツである香川県の島「てしま」を起点に、和食についての捉え方や今後の日本と海外との食文化のコミュニケーション、和食の役割など、多角的な視点からメッセージを寄せてもらった。「てしま」は現在人口16人、近い未来に無人島になることは明白であるが、氏は、島の文化を継承したいと考えている。島で雇用を生むプロセスのスタート地点として、東京で開業した。今年7年目を迎えるが、店には日々、和食に興味をもつ外国人が世界中から集まる。
<主な内容>
1.和食とは、僕の生きる術。海外と和食文化、風土についての考察。
2.顧客や研修生は世界各国から。日本料理への注目度と、対する国内での興味の減速など
3.海外のシェフは日本食の何に惹かれているのか。自国の料理にない手法を取り込む目的
4.日本人の「こうでなくては」の和食概念の形骸化を感じる時
5.絵本の世界におにぎりと味噌汁がでてこない、現在の食育表現。
6.海外イベントに行くと、和食が理解されはじめていると感じる
7.和食はもっと自由でいい。だしは何からとってもいい。
8.生産者、産地とつながる意味を考える
9.海外研修スタッフが運んでくる、「外の空気」と「気づき」。
10.産地の現状から思う、これからのこと
11.生産者、歴史的なこと、気候風土、すべてのことの上に現在の和食は成り立っている
12.次の時代に料理人のバトン、和食をつなげるヒント

【パネルディスカッション】
◉テロワール・アンド・トラディション・ジャパン代表 二瓶徹氏

二瓶氏は「文化的価値を伝える海外展開」をテーマに、ものを消費者に届けるだけでなく、その価値に共感してもらうことの大切さを指摘した。

私たちの会社は、「中小零細企業が99%を占める食品産業が価格競争に陥ると、体力がなくなってしまう。ものを作るだけでなく、本来持っている食の価値を消費者に直接訴求することで新たな市場を構築したい」と、志を持つ生産者が集まって2015年に設立。国内では生協と組み、食品のストーリーを伝えて関心を持ってもらうとともに、海外では現地のパートナーと組んで、山椒や黒酢などの日本の伝統食品や青果物を輸出している。
問屋を介さず物流から商流まで直接携わることで、現地のニーズ把握ができるため、鍋用に薄く肉をスライスする講習や手軽に楽しめるミールキットを配送。環境意識の高い欧州の規制などに対応しつつ、日本人以上に価値をよく理解してくれる海外のパートナーも多く、彼らの感覚で食材の新たな可能性を提案し、食の歴史など文化的価値も伝えていきたい。

◉ぐるなび社長室長 家中みほ子氏
家中氏は、「外食業界におけるインバウンド動向」と題し、訪日外国人客のデータを基に、日本食のどこに魅力を感じているのかを説明した。

コロナ禍で激減した訪日外国客は回復基調にあり、国別では東南アジアが7割を占める。訪日客の目的は、2位のショッピングを大きく引き離し、「日本食を食べること」が1位。23年の飲食の消費額は、コロナ前の2019年を上回った。
ぐるなび外国版でのアクセスランキングを見ると、関東では1位が上野・浅草。もんじゃ焼きなど、多くの外国人が詳細なメニューを検索し、岡山市などハラル対応やネットを活用した発信強化で意外なエリアが検索されている。アクセスが不便な地方の名店にヘリで行くプレミアムツアーが即完売するなど、ぐるなび社員がかかわり地域の魅力を発信している。コロナ禍で店舗のDX化が進み、おもてなしの時間をさけるようになった。
日本の食文化は、飲食店や料理人の創意工夫もあって豊かになってきた。飲食店での良質な食事体験は日本に対する良いイメージに繋がる。飲食店が日本食文化発信の担い手として今後ますます重要になり、その飲食店を支援することでインバウンドのキープレイヤーとして観光立国を盛り上げていきたい。

◉農林水産省 輸出・国際局 輸出企画課長 吉松亨氏
吉松氏は、「海外への日本食・食文化の発信・普及」と題して、同省の取り組みを説明した。

海外での日本食レストランの概数は、21年の約15・9万件店から約2割増えて、約18.7万店になった。アジアや欧州が約2割ふえ、北米はコロナ禍で約1割減った。中南米では、アニメ人気もあって倍になった。焼き鳥や鮨、日本食レストランと表していても、中味はアジア食レストランということもある。マーケットが拡大しているのはいいことだが、日本食の価値を落とさないことも大事だ。
農水省では、①日本産食材を使う店を「サポーター店」として認定➁外国人料理人の育成、③日本食・食文化の紹介映像の制作・発信④トップセールスという四つの形で日本食の普及につとめている。2006年に農林水産省が海外日本食レストラン認証する制度を始めようとしたところ、「すしポリス」と批判されたことから、農水省がガイドラインを作り、民間が実施や認証をする形をとっている。VRを使った映像コンテンツを農水省のYouTubeチャンネルで発信したり、JETRO内に日本食品海外プロモーションセンター(JFOOD)という組織を作り、輸出にもつなげており、さまざまな形で日本の食の魅力を伝えたい。

【クロストーク】
最後のクロストークでは、基調講演を行った巽氏も加わり、「日本食の価値や強みはどこにあるのか」「人口減少の中で、次世代に食文化を伝えて行くには」など、会場からの質問も受けながら、各パネリストが意見を交換した。シンポジウム終了後は、出演者を囲んでの懇親会も行われ、約20人が参加した。


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