2009年10月27日 2009年度第5回勉強会 

「栄養・健康調査データの見方」の報告

栄養・健康調査データの見方

  • 講師:佐々木敏氏(東京大学医学系研究科公共健康医学専攻社会予防疫学教授)
  • 平成21年10月27日、18:30~20:00
  • 於:東京ウィメンズプラザ会議室
  • 参加者:27名

まとめ:佐藤達夫

相反する科学データのどちらを信頼すればいいのか

JFJの勉強会では、さまざまな分野の専門家を講師として招いている。立場の異なる講師からは、ほとんど正反対の内容を伝えられることもある。たとえば「農薬の功罪」あるいは「メタボ基準の評価」など。しかも、それぞれの先生はそれなりの科学データを示して解説をする。そうなると、私たちは「何を(どちらを)信じればいいのか」という素朴な疑問に突き当たる。

今回は佐々木敏氏に「栄養・健康データの見方」を教えていただいた。佐々木氏は、日本では数少ないその道(栄養疫学)の専門家だ。

冒頭、佐々木氏は下記の問題を提示した。それぞれに○または△または×で答える問題だ。

  1. ほぼ健康な63歳男性です。理想の(もっとも生存率の高い)BMIはほぼ22である。
  2. しっかり減塩(1日あたり約5g減)できれば多くの高血圧は治る。
  3. 減塩は高血圧の予防対策にはあまり役に立たない。
  4. 肥満は骨折(大腿骨頭の骨折)の危険因子のひとつである。
  5. 日本人の食事は最近30年間で少しだけ薄味になった。
  6. 日本人の魚摂取量(平均)は最近30年間に減少した。
  7. 日本人における飽和脂肪酸の主な摂取源は肉類である。
  8. ブルーベリーに豊富なアントシアニンという物質は、疲れ目の視力回復に効果がある。

以上だが、会員の皆さんも考えてみてほしい。

佐々木氏は、これらの一つ一つに、元になるデータを示しながら丁寧に答えてくれた(時間の関係でごく簡単な解説になった項目もあったが)。

たとえば、第1問の答えは「×」だ。

メタボリックシンドロームを提唱する学会や厚生労働省がその根拠として示す「疾病合併率が最も低いのはBMIが22」という有名な図がある。佐々木氏は、この図の「疾病」には、日本人の死亡原因として重要なガンと急性呼吸器疾患の2つが入っていないと指摘した。さらに、この図をよく見ると調査対象となっているのが「30~59歳の男女」であることがわかる。

この点を考慮した別の図を見ると、63歳男性の理想BMIは23~24.9であることがわかる。よって、この問題の答えは「×」になるのだ。このように、栄養・健康調査データは「結論」だけを見るのではなく、その周辺
(研究がどのような条件のもとで行なわれたか)をていねいに見ることが重要なのだという。

佐々木氏は信頼できる研究として次の要素をあげた。

  • 魅力的な結果でなくてよい。
  • ていねいに測ってあること
  • 原著論文であること

さらに「複数の研究結果がほぼ一致していること」という条件が揃って、はじめて「充分に信頼できる研究結果となる」と結論づけた。

上の「原著論文」について、少し解説したい。まず原著というのは「はじめての発見である」ということ。ただしはじめてであれば「大きな発見」でなくでもよい。

大きな発見などはめったにないので、むしろ「小さな発見」であることが多いのだが、重要なことはそれが今までだれも指摘しなかった発見であることだ。

また「論文」というのは学会発表ではない。専門誌に論文として採用され、掲載された研究であるということ。学会というのは、佐々木氏の見解では、研究者の情報交換の場であって、学会で発表されたからといってその研究が信頼できるものであるという保証は何もない、のだそうだ。

また、佐々木氏は新しい学説が発表されたときの対応として、「1つめは“偶然”、2つめは“ひょっとしたら”、3つめは“無視できない”」というのが、研究者の常識だという。しかしマスコミは、1つ目に飛びつき、2つめ目は扱いが小さくなり、3つ目はほとんど無視されるとして、マスコミの対応を批判した。

ジャーナリストにとってこれは非常に悩ましい課題であるとは思うが、ジャーナリストの力はとても大きいので、なんとかこの問題をクリアして、ぜひ科学的な栄養・健康情報を発信していただきたい、と結んだ。

★ちなみに、先ほどの問題の正解は、1~6までが「×」、7と8が「△」。