「有機の畑見学と農園主・飯島幸三郎さんとの懇談」の報告

「有機の畑見学と農園主・飯島幸三郎さんとの懇談」

・2009年11月24日、11:00~14:30
・参加者:17名
まとめ:渡辺百合

今回見学をお願いしたのは千葉県船橋市で有機農業を営む飯島幸三郎さんの農園。新京成線、
東葉高速鉄道「北習志野駅」からバスで15分ほど入ったところにある。船橋市も首都圏の例に
もれず都市化が進んでいる地域だが、飯島農園のある北部は船橋市ではもっとも畑が多い。

●直売所「味彩畑」の見学
最初に船橋農産物供給センターの直売所「味彩畑」に。センターの約140名の生産者の野菜
をはじめ、米、果物、農産加工品などが並ぶ。とれたての野菜には、生産者の名前や料理法を
書いた生産者カードがつけられている。地域性のある白なすや八つ頭系のゴロっと大きないも、
見た目より食味を大事にと育てた信州の葉摘まずりんごなど、店内はそれほど広くはないが、
品目はかなり。

72味彩畑.jpg

●飯島農園の畑見学
飯島さんの案内で畑をみる。1985年より無農薬栽培ということなので、25年近くの実績をもつ。
ただし、種子は購入しているので、その段階で消毒されているものもあるという。有機・無農薬
は基本的に虫との戦い。農薬を使わなくても出荷できる野菜を中心に栽培。それでもブロッコリー
などはひとつひとつ、手で虫をとることになる。
そこまでがんばっていても、飯島さんのところでは有機認証を受けていない。認定条件をととの
える手間と同時に、1品目につき10数万という費用がかかり、しかも毎年それが必要という。多品
目を作る畑の野菜を、有機栽培と銘打って販売するには多額な費用がかかるということだ。
飯島農園では細かく区切られた区画に、いろいろな野菜を栽培している畑が目につく。農業カル
チャー系の「ゼロから始める家庭菜園教室」の実習場、1坪菜園教室、10坪菜園教室。そこで、自
分の手で野菜づくりを楽しみたい人や、就農を目指す人に、農薬を使わない野菜づくりを指導して
いる。安全でおいしい野菜を収穫すると同時に、生産者と消費者のコミュニケーションを深め、農
業を考える、自然を考える場ともなっているようだ。
農園の一角にはハーブ畑が作られ、ハーブ教室も開かれている。また、ビオトープも製作中。

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●竹林のテーブルで昼食
竹林を切り開いた場所にテーブル席が設けられ、昼食をいただいた。献立は「味彩畑」の野菜で
ていねいに作られた地元のこだわり弁当と、飯島農園の手前みそと野菜で仕込んだ豚汁、ハーバリ
ストの吉本さんお手製の「風邪予防」と「高血圧予防」の2種のハーブティ。デザートに葉摘まず
りんご。

72BambooLunch.jpg

●飯島さんの話
飯島さんが、できる限り農薬を減らした安全な農産物を地域に供給するシステムとして取り組ん
できた「農事組合法人 船橋農産物供給センター」の始まりは1975年。7人で発足し、現在は生産
者約140名、約120品目を扱う団体となっている。
有吉佐和子「複合汚染」やレイチェル・カーソン「沈黙の春」が話題となった時代、消費者から
安全な無農薬野菜を求められたが、当時、農家では農薬は毒だという意識も低く、手袋やマスクも
なく、生産者は農薬を手でかきまわしていたという。当然のことながら、農薬は消費者にとって危
険である以上に、生産者にとってより危険が大きい。手に触れる毒性を1とすると、飲むと10倍、
吸い込むのは30倍にもなる。
さらに、農産物価格はセリ値しだい。せめて野菜の値段が生産費に届くようにということ、生産
者にも消費者にも安全な野菜を供給するということで、やがて生協と結び、船橋市民の野菜を地元
の農家が栽培・供給するというシステムを築いていった。生産者の収入を安定させるためには売り
上げの2~3%を積み立て、価格が下がったときの補償費に充てるという制度も実施した。
しかし、現在のように価格が安ければそれでいいという状況、野菜が100円均一で並ぶような状
況の中では、組合の経営は楽ではないという。

農の問題は安全性だけではない。いまや、米農家の80%以上が、65歳以上。それを考えると、有
機栽培のものを選択するなどといっている事態ではないのではと飯島さんはいう。
また、日本の食品、たとえばみそ。みそは本来、大豆と米こうじで時間をかけて熟成させるもの
だ。ところが現在では、油を搾ったあとの大豆かす利用、米こうじではなくアルコール発酵で作ら
れる製品があり、それでもみそと呼ばれている。そんな“もどき”商品が平気で出回ってしまうよ
うな、おかしな状況も見直していかなければいけないのではないか。トマトはすべて酸味の少ない
桃太郎に、大根は軽小短薄の青首大根に。こんなことで果たしていいのか。たとえば、「味彩畑」
で販売されている白なす。これは地元で作られてきた伝統野菜であり、そういったものに光を当て
ることで、文化の継承もしていきたいと、飯島さんは考えている。

農業教室やハーブ園などの、飯島さんのさまざまな試みは、生産者と消費者がうまく支え合って
いくシステムを作っていきたいというところに端を発している。農家の後継者がいないために田ん
ぼや畑が荒れている。作り手のいなくなった畑や田んぼと、野菜や米を作ってみたい人を結びつけ
られないか。農業、農業関係でこれから仕事をしていきたい人と仲間になり、その人たちに力がつ
いていけば、自家だけでは支えきれなくなっている農家の応援もできるかもしれない。

飯島さんの思いを伺い、質問を投げかけているうちに少々冷え込んできて、まだ聞き足りないこ
ともあったが会はお開きになった。参加者は、帰りのバス時間まで「味彩畑」で、せっせと新鮮な
野菜を買い込み、荷物を抱えて満足の帰路となった。
見学会の満足感とともに、有機栽培の問題、安ければいいという最近の農産物や、加工食品に対
する風潮、個別所得保障制度をはじめとする農政の動向などなど、これだ!という結論の得られな
い日本の農業の現状を、また考えさせられた訪問だったと思う。

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