2022年8月2日 2022年度第4回勉強会の報告

アニサキス食中毒の最新情報

・演 題:わが国のアニサキス(症)に関する情報
・講 師:杉山 広(国立感染症研究所寄生動物部 客員研究員)
・進 行:瀬古博子
・参加者:会場参加12名/オンライン参加43名
・文 責:瀬古博子
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最近、毎年300件以上の食中毒事件が、寄生虫アニサキスを原因として発生している。
アニサキスとは、いったいどのような寄生虫なのか。なぜ食中毒事件が多くなったのか。防ぐにはどうすればいのか。
寄生虫学者の杉山 広 氏をお招きし、関心を呼んでいるアレルギーの問題も含めて、多様な切り口から解説していただいた。

■アニサキスによる食中毒事例
・アニサキス症は、魚介類を生食し、数時間以内に激しい腹痛・悪心・嘔吐を起こす。アニサキス食中毒のうち、95%が胃アニサキス症、残る5%が腸アニサキス症。
・腹痛の原因は、アニサキスの粘膜穿入と患者の免疫反応。アニサキスが胃の粘膜にささること自体はほとんど痛みに関係がないが、ささることがトリガーとなっている。
・じんましんは、胃アニサキス症の20~30%で起こる。胃痛、じんましんはアニサキス摘出後に改善する。

■アニサキス・アレルギー
・魚介類アレルギーは魚介類そのものがアレルゲンではなく、魚に寄生するアニサキス幼虫が原因という論文が1990年に発表された。
・サバ等でアレルギーのような症状が出たとき、アニサキスのアレルギー、サバの筋肉に含まれる物質(パルブアルブミン)によるアレルギー、ヒスタミン中毒の3つのどれが該当するか、判断して治療することになる。
・アニサキス・アレルギーの症状としては、呼吸困難などにもなるアナフィラキシーも含まれ、アレルゲンとして15種類の物質がわかっている。このうち3種類は耐熱性で、缶詰のようなものでもアナフィラキシーを起こす可能性がある。

■感染源となる魚介類とアニサキスの生活環
・感染源となる魚種はサバが多く、シメサバ、寿司でも発症する。魚の内臓(白子や真子)、肝臓の内部にも寄生する。
・アニサキスは、クジラの胃に成虫(オス・メス)がいて、交接し卵を産む。卵は便とともに海中に放出され、孵化し、幼虫となり、オキアミ類(中間宿主と言い、その体内でアニサキスは幼虫ではあるが発育する)に食べられる。それがクジラに食べられ、クジラの中で成虫になる(成虫を宿すクジラをアニサキスの終宿主と呼ぶ。アニサキスは回虫の仲間)。
・オキアミ類は、小型魚類・イカ類にも食べられ、それが大型魚類(サバなど)に食べられ、その間、幼虫は発育しないまま、魚の中に蓄積される。これを人間が食べて、アニサキス症になる。イヌ、ネコも感染する「人獣共通感染症」である(幼虫が蓄積するだけで発育しない魚類・イカ類・人間は待機宿主と呼ばれる)。

■アニサキス食中毒に対する行政の対応
・1994年に住血吸虫などを対象とした「寄生虫病予防法」が廃止されたが、その後1999年、食品衛生法施行規則に、寄生虫が原因でも「食中毒」として届出することが明記され、食中毒病因物質の分類の「その他」にアニサキス等が例示された。
・2012年、アニサキスは独立した病因物質として追加され、アニサキス食中毒は「原因:アニサキス」として届出することが、食品衛生法のもとで決められた。

■食中毒事件数、患者数、レセプト解析による患者数の推定
・食品衛生法での対応により、アニサキス食中毒事件数は増加。
・厚生労働省の食中毒統計(2020年)では、食中毒事件数の原因の第1位はアニサキスで386件。一方、患者数は396人と、それほど多くない。
・レセプト(診療報酬明細書)解析により、アニサキス食中毒の患者は年間7,000人以上と推計した(2005年から2011年の平均値)。食中毒統計の約18倍になる。

■アニサキスの分類
・アニサキス科の中に、病気を起こすアニサキス属(幼虫の形態からⅠ型、Ⅱ型に分けることがある)、シュードテラノバ属があり、それぞれ胃の形が異なるなど、特徴がある。
・食中毒になった場合、アニサキスは潜伏期間が30分~36時間と短い。一方、シュードテラノバでは24時間から2週間と長くなり、咳とともに虫を吐き出すこともあるなど、症状も異なる。
・アニサキスⅠ型には A. simplex(S型)、A. pegreffii(P型)があり、これらは成虫でも形態鑑別できず、遺伝子検査をしないと種類を区別できない。S型が、わが国の食中毒の主因となる。

■P型は内臓にとどまり、S型は筋肉へ行く
・遺伝子検査で食中毒の原因となったアニサキスを調べたところ、食中毒患者は基本的にS型に感染していた。
・魚の分布としては、太平洋側の魚はS型に、日本海・東シナ海の魚はP型に感染。太平洋側の魚(S型に感染)が高速道路のコールドチェーンで運ばれ、全国で食中毒の原因となっていると推察される。
・魚が、オキアミや小魚を食べてアニサキスに感染すると、アニサキスはまず魚の内臓に行く。P型は内臓にとどまり、S型は内臓を経て筋肉に行く。さしみを作るとき、P型は内臓とともに捨てられるが、S型は筋肉といっしょに食べられてしまうので、人が感染しやすい。

■アニサキス食中毒の予防
0.アニサキス食中毒の存在を啓発
1.加熱(60℃、1分以上)⇒アニサキスは確実に死ぬ
2.冷凍(-20℃以下、24時間以上)⇒刺身・寿司も可
3.魚の内臓を生で食べない・提供しない
4.新鮮な魚を購入し、速やかに内臓を除去する
 (ただし、泳いでいる魚の筋肉にもアニサキスが寄生する可能性はある)
5.養殖を推進し、養殖魚を喫食する
6.塩、わさび、しょうゆ、酢ではアニサキスは死なない
 (調理で使う量、調理で処理する時間では死なない)

・米国やEUでは生で食べる魚について冷凍を義務づけているが、我が国では冷凍については、国・厚生労働省の通知のみで、法制化の動きは見えない。
・2018年にカツオによるアニサキス食中毒が多数発生したが、デパートの鮮魚売り場で、生食用カツオへの対応・処理方法を調査したところ、冷凍処理をしたり、取り扱いを中止したりしたところが多かった。
・事業者はアニサキスの寄生に敏感であり、アニサキス食中毒の認知度はきわめて高く、冷凍の徹底、腹部筋肉の生食禁止(加熱用にする)といった対策を自主的に行っている。
・養殖魚については、養殖条件によっては、魚がアニサキスに感染するという調査結果が、発表された。人工種苗(人工授精させたもの)を使い、加熱した人工飼料を与え、人工海水を使うのであれば、オキアミはいないので、アニサキスに感染しない。
・まだ実験段階であるが、パルス電流殺虫技術は大いに期待できる。