2022年3月24日 2021年度西日本支部第4回勉強会の報告

新潮流として食を「つなぐ人」を考える

・演 題:新潮流として食を「つなぐ人」を考える
・講 師:山脇りこ (料理家、JFJ会員)
・進 行:小山伸二
・参加者:オンライン参加49名
・文 責:小山伸二
**************

料理家の山脇りこさんを講師に迎えて、日本で昔から生産者と小売店や消費者をつないできた「目利きの仲卸や問屋」の存在を、現代的な視点で考える勉強会を開催した。

山脇さんが連載している『シグネチャー』(ダイナースカードの会員誌、35万部)で登場した三人の「つなぐ人」が紹介された。

【講演内容】
①精肉を扱う新保吉伸さん
新保さんは、滋賀県南草津で1987年創業の精肉店「サカエヤ」を経営。
日本中のシェフが「新保さんの手当てした肉を買いたい」と列をなす。メディアでも多く取材され、いまや「肉の神様」とまで言われる。
単なる美味の探究の前に、美味しい肉とは何か?を改めて真摯に考え、新保さんが、美味しいと本気で思う肉だけを扱っている。
結果的に、格付けのA4、A5といった不自然にサシが入った肉ではなく、健康に育てられた肉にたどりついた。北海道の完全放牧牛や、阿蘇の草原で育った牛、価値が認められてこなかった経産牛、また近江牛でも、サシを意図的に入れたりはしない信頼できる生産者によるものなど、新保さんのところでしか買えない肉ばかりになった。つまり、新保さんは、肉を売る=新しい価値観を売っている、新たな美味しい肉の定義を提案していると、山脇さんは捉えている。
山脇さんは、これからの、仲卸、目利きは、ただの御用聞きではダメだと考えている。
生産者と、シェフと、イーブンな関係で、提案し、ウィンウィンを作り出せる人。それが、いま、これから、求められるつなぐ人だ。
その結果、豊かな食文化に貢献できたら、さらに素晴らしい。
たとえば、一般流通では間違いなく値がつかない128ヶ月齢の経産牛。健康な牛だ。そんな経産牛に、「手当てをして、そのシェフが作りたい料理に沿うようにして、届ける」そんな仕事(「手当て」と呼ぶ)をする新保さん。
従来の「格付け」とは違う、美味しさ、価値観を生み出し、消費者(料理人たちも含め)にも届ける。
こうしたつなぎ方で、ビジネスとしても成功していることに、山脇さんは注目する。慈善活動では長続きしない。それをビジネスにきちんとすることによって、次世代が憧れる職業にもなる。
さらには、これが、持続可能な事業にもなっているのが、素晴らしい。

②鮮魚の前田尚毅さん
前田さんは、静岡、焼津で創業60年をこえる「サスエ前田魚店」4代目。
「前田の魚でなければ」「目利きの凄さをこれほど感じたことはない」「千尾の鯵から最高の1尾を選べる人」「前田さんに魚を『注文』したことはない。彼が見極め、仕立てた魚を送ってもらい、それを料理して、お客さんが喜んでくれる。それでいい」と、全国の、しかもトップをゆく料理人たちが全幅の信頼を寄せる存在だ。
そんな料理人たちの期待に応えるように、前田さんは、「それぞれの料理人の顔を思い浮かべて仕立てる」。全国の取引先のミシュランの「星」の数は、80を超えた。(ご本人は、星の話は嫌うが。)
「漁師、市場、私たち(魚屋)、そして料理人、それが全部つながって、お客さんに食べてもらうことを意識したら、もっともっと魚は美味しくなる。食べたい人が増える」「口に入れた瞬間の香り、柔らかいだけじゃない噛み応え、食感、咀嚼して温度が上がったところでのあまみ、うまみ、ぜんぶひっくるめて魚のおいしさ。刺身には刺身の、天ぷらには天ぷらの、焼き魚には焼き魚の、おいしいさがある。そのゴールにむけて、魚を見極め、仕立てたい。最高の魚が2尾あったら、どっちにするか? 究極の選択の決め手になる仕立てがあると思う。ただし、私一人ではできない、漁師だけでも、料理人だけでもできない。やっぱりリレー。みんなでおいしくする」と。
特に前田さんには、静岡、駿河湾の魚でつなぐ、と言う自らに課している使命がある。
駿河湾の魚で、漁師、流通、料理人をつなぎたい。
ここでも、すべての魚が豊洲に行く、マグロが高級、と言った価値をがらりと変えている。金目鯛や、太刀、鯵、カツオといった魚を、引き上げた瞬間から、仕立てあげるまで連携して、最高の魚にする。
それらはまずは地元の信頼する飲食店へ行き、駿河湾の魚を食べるために、全国から人が静岡に来ることを、願い、チームで切磋琢磨している。

③在来種野菜の奥津爾さん
奥津さんは、長崎県雲仙市千々石で、全国でも珍しい自然栽培や在来種の野菜を中心に扱う直売所「タネト」を営む。
東京から移り住んだ奥津さんは、 生産者でもないし、目利きの問屋、仲卸でもない。いわば、「新人の八百屋」さんだ。
その立場で、「つなぐ」新しいタイプのつなぎ方だ。
奥津さんは、「種とデザイン」「種の学校」などの講座やイベントを企画し、在来種の野菜や種取り農の魅力を発信し、種取り農家や、自然栽培農家、彼らが作る野菜に光が当たる仕組みを実現しようとしている。
「新たな、在来種野菜の〝シーン〟を作りたい」と言う。
単なる商品の売り買いで、中に立ちつなぐだけではなく、webやSNS、イベントを仕掛け、ムーブメントを起こすことで、うねりを作り出している。そこから、興味をもつ料理人や、消費者が増え、在来種を育てる農家や、種取り農家が増え、さらには彼らが、しっかり自立したプロ農家になるように、とも考えている。
これまで、仲卸や問屋は表に出てくることはなかった。しかし、取材、紹介しているような、新たな「つなぐ人」は、ただ注文をとるだけではない。新しい価値を生み出して、農家や漁師、シェフや消費者に提案し、いずれも、そろって高みを目指すキーマンだ。
だからこそ、彼らはビジネスマンとしても秀逸であると、取材を通じて山脇さんは強く感じている。
今までの固定観念を覆し、これも美味しいでしょ?と新たな価値感を提示して、関わるみんなを幸せにする。ここでしか買えない、ここでしか食べられないを、いかに生み出すか?
そのためにも、「つなぐ人」は、一流の起業家であり、ビジネスマンである必要もあるのだ。
さらに、イニシアティブを発揮して、「これが私の商品」「これが私の流通のさせ方」「これが私が思う一級品」と自信を持って発信できる人でもある。

これからの豊かな食文化のために、「食」の全体を俯瞰でき、目利きでもある「食」のコンダクター(単なるレストランコーディネイターとは違う)のような存在が求められる。そんななかで、新しい職業として「つなぐ人」が、ますます重要になるだろう。