2021年9月13日 2021年度西日本支部第2回勉強会の報告

人と自然の健康を結ぶ「窒素」

~賢明な窒素利用は「持続可能で豊かな食」の礎~

・演 題:人と自然の健康を結ぶ「窒素」~賢明な窒素利用は「持続可能で豊かな食」の礎~
・講 師:林 健太郎
  (総合地球環境学研究所 客員教授、農業・食品産業技術総合研究機構 農業環境研究部門 主席研究員)
・進 行:小山伸二
・参加者:オンライン開催47名
・文 責:小山伸二
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西日本支部の勉強会では、人の社会と自然を行き交う「窒素」に魅せられている林健太郎氏を講師として招き、持続可能な「窒素利用」を、「食」を介して考えるヒントをお話いただきました。

まず、「窒素問題」とは、どういう問題なのか。
その大きな見取り図を、わかりやすく示してもらいました。

【講演要旨】

窒素はタンパク質や核酸塩基に必須の元素です。
ただし、空気中に無尽蔵に存在する窒素ガス(N2)は安定で、我々がいくら深呼吸しても血肉にはなりません。
我々は、タンパク質という形で窒素を食べて生きています。
そして、食べ物になる農作物や畜産物の生産において、肥料としての窒素が必要になります。作物も家畜も生き物で、窒素が必要だからです。 フリッツ・ハーバーとカール・ボッシュが20世紀初期にドイツで開発した「ハーバー・ボッシュ法」によって、現代の人類は「窒素肥料」を望むだけ合成できるようになりました。しかしながら、食料生産に投入する窒素の約8割が、最終的な食料に到達しません。流通・加工・消費のそれぞれの段階で廃棄・ロスとして環境に排出され、結果的に、「窒素汚染」をもたらしています。窒素汚染は、地球の温暖化、大気汚染、水質汚染、富栄養化といった多様な環境影響を引き起こし、人の健康と生態系の健全性のどちらにも、甚大な脅威を及ぼしているのです。
すなわち、我々は肥料としての窒素利用という便益を得ると同時に、窒素汚染という脅威を被っています。このトレードオフを「窒素問題」と呼びます。
持続可能な「食」システムの実現には、農業における肥料としての便益を保ちながらも、窒素汚染による人と自然への脅威を低減した窒素利用が求められます。
窒素問題の解決には、自然・社会・人文科学が協働して、各専門分野を超えた「学際研究」が欠かせません。
さらに大切なこととして、学問研究だけではなく、メディア、企業、行政、生産者、消費者などの様々なステークホルダーと繋がりをもち、「将来世代に持続可能な窒素利用、そして豊かな食を渡す」ことを目標とした行動を起こす必要があります。アカデミズムにおける各専門分野を超えた学際的な研究に加え、多様なステークホルダーとの協働による「超学際研究」を構想しています。ここにおいて、「食」に携わる方々は重要なアクターとなるのです。

<人と自然の健康を結ぶ「窒素」:講演資料(PDF)>

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「脱炭素」のための国際的なアクションにつなげるのに約30年かかったことを考えると、この「賢明な窒素利用」に関して、すべてのステークホルダーに届くような伝え方、ナラティブ(物語る力)が必要だというお話は、説得力もあり、また強く印象に残りました。
今後とも、「窒素問題」に関する研究の進展と、「超学際」的な協働の今後に関心を寄せていきたいと感じた勉強会でした。