2007年2月19日(2006年度)

第16回公開シンポジウム「大人の食育・子どもの食育」 の報告

~現場の事例から食育の将来をさぐる~

2007年2月19日(月)13:00~
家の光会館7階コンベンションホール

プログラム

13:00 あいさつ 越膳百々子(代表幹事)
13:05 基調講演 高橋久仁子
13:45 パネルディスカッション
    《パネラー》
    大村直己、佐藤 弘、泥谷千代子、佐藤達夫
    《コーディネーター》
    山本謙治(副代表幹事)
16:00 名刺交換会・懇親会
主催/JFJ 食生活ジャーナリストの会

シンポジウムの趣旨

「食育基本法」の施行から1年半。「食育」ということばがようやく市民権を得てきて、真摯に食育に取り組む企業も日ごとに増えてきました。しかし、後を絶たない食の安全の問題に見るように、生産現場から一般消費者にいたるまで、依然として試行錯誤が続いています。
食生活ジャーナリストの会では、昨年「何から始める? 食育――食生活ジャーナリストの取り組みと今後の展望」というテーマでシンポジウムを開催しました。本会会員の中には、「食育」ということばが認知される以前からこの問題に取り組んでいた専門家もいます。そこで、取材現場で直接・間接的に「食育」に取り組んでいる会員たちがパネラーとなり、取材の中から見えてきた現状と問題提起を行い、今後の方向性をさぐるという実際的な試みでした。
昨年の成果を踏まえながら、今年は教育・研究機関、メディアでそれぞれの立場から「食育」に取り組んでいる方々をお招きして実際的なお話を伺い、活発な討論を展開していただきました。「食育」に何を期待し、どのようにかかわったらよいのかという皆様の疑問に少しでも応えることができれば幸いです。

代表あいさつ

食生活ジャーナリストの会代表幹事  越膳百々子

 皆さま、こんにちは。私はただいまご紹介をいただきました、越膳百々子と申します。 
 本日は週明けのお忙しい時間帯にもかかわらず、当シンポジウムにお越しくださいまして誠にありがとうございました。
 食生活ジャーナリストの会が発足いたしましたのは、今から18年前、1989年のことです。新聞、通信、テレビ、ラジオ、雑誌、書籍で活躍するメンバーが集まって情報を交換、共有し、資質を高めることを目的として創りました。
 会では、シンポジウムのほかに定期的な勉強会も開いております。今年度の勉強会は「抗酸化物質とポリフェノールの展望」「メタボリックシンドローム」「魚のトレーサビリティ」の3回を実施いたしました。
 皆さまの中で会にご興味がおありの方、入会ご希望の方がいらっしゃいましたら、どうぞ事務局までお申し越しください。
 本日のシンポジウムのテーマ「食育」は、昨年に引き続いて2回目となります。
 報道の不祥事が続く中、高橋教授からは興味深いお話が伺えると思います。また、食の現場を熟知しているパネラーの皆さまからは、現代の食の問題点をご指摘いただけると思います。
 どうぞ皆さま、このあとの名刺交換会も含め、最後までお楽しみいただけますよう、お願い申し上げます。これをもちまして、ごあいさつとかえさせていただきます。ありがとうございました。

基調講演:フードファディズムと食育

群馬大学教育学部教授 高橋久仁子

  いま、聞いたことのないような情報が世の中に飛び交っています。世の中に、「おいしくて、同時にやせる食品」への期待や願望が広がっています。メディアがこういう理想の食品があるかのような情報の出し方をして、消費者の耳や目を惑わしています。おいしくてやせるものなんて、そんなものはありません。
 納豆報道も、そもそも捏造でした。納豆を食べると体脂肪が減少するということは、科学的なデータからみても、ないと思います。もしこの番組で法則に則って食べるとやせたというのなら、好き勝手やったらどうなるかという対象区を設定しなければ、いくら50人で試験をしても意味がありません。
1月7日に納豆の品切れ騒動が起こり、1月20日に捏造がわかりました。これは典型的なフードファディズムです。ファディズムとは、「のめりこむ」などの意味があります。食べ物や栄養素の、健康や病気へ与える影響を過大に信じたり評価することを「フードファディズム」といいます。この概念を初めて認識したのは、1991年に出版された“Nutrition
and Behavior“でした。ぜひこれを普及させたいと思い、翻訳して『栄養と行動』として発刊しました。
フードファディズムの三つの分類に、①健康の好影響をうたう食品の爆発的な流行、②食品、成分の薬効強調、③食品への不安の扇動の三つがあります。①には、30数年前に大流行した紅茶きのこに始まって、アミノ酸飲料、にがり、寒天、ココアなどがあります。②には、大量摂取の影響論、利用量を無視して誇大化するなどがあります。食品Aをとると、Cという効果が起こるというのです。思いっきりテレビなどはこれのかたまりです。タマネギに含まれる成分には血糖値を下げる作用があるというのですが、だからといってタマネギを常識の範囲で食べたからといって血糖値が下がるとは言えません。ここで用いた成分は、50 キロ分のタマネギを一度に食べる量に匹敵するのです。
お豆腐は健康だ、ヘルシーだと言って、たくさん食べる。ゴマが良いからといって、何にでも振りかけて、平気で200~300キロカロリーオーバーになっているのです。
 思いっきりテレビで、水を何リットル飲むとよいという報道がされ、水を飲んではいけないと医者から止められている人が病院にかつぎ込まれるのです。TVを、自分のデータを持っている目の前の医者よりも信じてしまうのです。
 フードファディズムを反映する社会は、過剰なまでの健康志向があります。長生きしたいというのは素朴な願望ですが、健康のため死んでもよいと言わんばかりです。
 私は思うのですが、日本のスーパーや小売店で売っている食品で、危険なものはないと思います。それなのに、不安をあおって誘導しようとするのです。
 変な情報源はなくなりましたが、似たようなものはまだいっぱいあります。
 良い情報、悪い情報ということでは、ジャガイモのソラニンがあります。ソラニンは2キロ食べると中毒を起こしますが、微量なら平気です。人間はコーヒーでも死ねますが、30~200杯という量が必要です。ウイスキーは一晩で一瓶あければ苦しい二日酔いになる程度ですが、30分で飲めば急性アルコール中毒になります。有益か害かは、量で決まるのです。よい悪いで二分したがりますが、食育で注意してほしいのもこの点です。
 食品には、よいも悪いもない。あるのは、食品との付き合い方、摂り方なのです。よい食品を食べようとか、そんな単純な話ではありません。自然、天然、植物性はよいが、人工、動物性は悪い――というのもそうです。「化学調味料無添加」とか、「砂糖不使用」というのも、フードファディズムでしょう。
 いま何が問題かというと、瑣末な食情報に影響され、食を総合的、全体的、俯瞰的に見られない人を生んでしまうことです。食は、健康と密接に関わっていますが、食さえよくすれば健康になるというのはどうか。食は薬でも毒でもないのです。食本来の役割を、大きく超えているように思います。おかしな食べ物情報に振り回されるのは気の毒です。適切に食べるということは、どういうことか。それを考えるのが、目指すべき食育のポイントではないでしょうか。

たかはし・くにこ
東北大学大学院農学研究課博士課程修了。農学博士。食生活教育のあり方を模索しながら、食や健康の情報を正しく利用するために「フードファディズム」の考え方を啓発。食生活分野に根強く残るジェンダー(社会・文化的性)問題にも取り組む。

パネルディスカッション:基本の食事は和食

食育コーディネーター 大村直己

 子どもの食と育を考えるサイト「ほねぶとネット」を運営して丸6年になります。それまでは、ある研究所で食生活に関するアンケートや調査を実施したり、商品テストなどをしていました。入社した昭和52年代は、日本が豊食といわれ始めた頃でした。「豊食」から「飽食」へ、そして「崩食」「呆食」へと変貌を遂げ、今では物と情報が氾濫しています。
私には24歳と高校生の2人の子どもがいます。豊かで便利な時代になりましたが、こんな時代の子育ては難しいと痛感しています。日本の子どもは、諸外国に比べ、自由になるお金を持っています。外食で好きなものを選ぶということに慣れてしまっている時代に、子どもを育てて食育をするのは、物がない時代に比べて難しいと痛感します。
おいしいものの情報が氾濫し、「ほどほどの食事」という食の基本が崩れ、皆が食べ物をだいじにしなくなってきています。食料自給率は40%。60%を輸入に頼り、どこの国から入ってきたか分からない食品に不安になっています。子どもにも糖尿病が広がり、血中コレステロールはアメリカの子どもより高い。10 数年前から体力の低下も言われ、欲望のコントロールもきかない。今の子は、自然体験や泥んこ体験もなく、親子で食事を作って食べたり、野菜を泥だらけになって作る体験が少なくなっています。「早寝、早起き、朝ごはんを食べる」という基本が、忘れ去られています。
次から次へとさまざまな情報が出てくる中で、何を選択すべきか迷っている人も非常に多い。日本の食文化、食のスタイルは素晴らしく、実際に高く評価されています。和食がバランスのとれる食事であるということを認識すべきです。
 若いお母さんは、あれも大事、これも大事と教わってきて、何が一番大事かを教わってこなかった。ご飯とおつゆがあって、おかずがある。和食は、バランスが崩れません。そういうと、「へーそうだったのか、夕飯のメニューに悩まないで済む」と言われます。「基本はここよ」と若い人に教えたいのです。メディアは、新しい情報でないと売れないので地味なことは好まないかもしれませんが、発信する側は、地味であっても大事なことを繰り返すことがたいせつではないでしょうか。

おおむら・なおみ
ほねぶとネット主宰。商品科学研究所(セゾン総合研究所)で、食ジャンルの調査研究に携わる。2000年に独立し、教育および食生活関連の業界誌への執筆、講演活動を行う。

食の向こう側にある人の生き方を伝える

西日本新聞社編集委員 佐藤 弘

皆さん、心を込めて作った食事を子どもが「まずい」と言って食べ残したらどうしますか。私なら張り倒します(笑)。でも、それは公共の場ではできません。できるのは「だったらお前が作れ」です。
そこで登場したのが弁当でした。香川県高松市では小学校5、6年生が月1回、年5回、自分だけで弁当を作ります。約束事は、火を通して作った弁当を持ってくるということです。
 「作れない子がかわいそう」という声もありますが、それをそのままにしておくことのほうが、よっぽどかわいそうです。「弁当によって、いじめがあるのでは?」と言われますが、いじめはいっさいないそうです。大変さがわかっているから絶対に友だちの弁当をけなさない。「よく作ったね」というような、いたわりの話になるそうです。
食育は、個人レベルの話ではありません。食のことを論じる時は、医療のことも論じなければならない。医療費は32兆円と、国家予算の10数パーセントになります。食べるのは非常に個人的な行動ですが、暴飲暴食で病気になった人に莫大な医療費がかかるという状況では、もはや食は個人の問題ではないのです。
高松の小学校の先生が、2年間弁当作りをした子どもたちに送った言葉を一部紹介します。
「あなたたちは、弁当の日を2年間がんばりました。食事を作る人の大変さが分かり、家族を思った人は優しい人です。自分の弁当をおいしいと感じ、うれしいと思った人は幸せな人生を送れる人です。弁当の日で仲間が増え、友を見直せた人は、人とともに生きていける人です。自分の作った料理を人が喜んで食べるのを見る人は、人に好かれる人です。家族そろって食事することが楽しいと感じた人は、家族の愛に包まれた人です。おめでとう。こんな人に育ってほしくて、弁当の日に2年間取り組んできました。あなたたちは立派に卒業できました」

さとう・ひろし
西日本新聞の長期連載「食卓の向こう側」取材担当。百姓になろうと東京農大に入学、のち農業を側面から支援するジャーナリストになろうと同社に入社。著書に「食卓の向こう側」1~9などがある。

学食を通じた食育

自由の森学園「食生活部」栄養士 泥谷千代子

 自由の森学園は、1985年に創立しました。
学校給食はどうするか、という話になった時、外食に任せてよいかと気付いた人たちがいました。有吉佐和子の「複合汚染」などを読み、自分の子どもを自分の手で守ろうと、家庭調理の延長の給食を始めました。有機農産物や添加物、化学物質を使わない調味料、加工品を使っています。野菜は品目を限定せず、たとえば青菜という形で幅を持たせて仕入れ、豚肉は1頭買いをして、部位ごとに分けて献立を立てます。パンも、天然酵母を使って30時間かけて仕込んでいます。
子どもにとって食べることは学ぶことと同じくらいたいせつです。日本文化は2000年以上かかってつくられたものですが、日本人は、戦後の短期間に自分たちのすばらしい食文化を手放してしまった、世界でも類を見ない民族です。
よい食材を使った給食を通じて感じていることは、重いアトピーでも治るということです。アトピーで食べられないものが多く、赤黒い顔をしていた少女が、数か月で白くなり、3年生になった時には普通の量を食べていました。エステや医者に行っても吹き出物が治らず常にフードをかぶっていた女の子が、食事だけでアトピーが治り、フードも取れました。食事の怖さを肌で感じました。
日本には古来からすばらしい食事がある、人間の体は食べたものでできている、ということを自分たちの子にも伝えていってほしい。社会にもそれを要求してほしい。それが願いです。
父母からは、「学食のほうが家よりもよいものを食べている」と言われます。食育を考える上で、家庭の団欒が大きな役目をもっています。企業戦士に、夕飯に間に合って帰宅してほしいのです。朝の9時から夜12時までではなく、朝4、5時ごろから夕方まで働いて、子どもたちと食文化を語り合いながら、男性がエプロンかけて料理をする。娘や息子の話が分かる、一緒に話せるお父さんが増えてほしい。経済発展しても、食育は個人の問題だと言っていては発展しない。働くお父さんとお母さんが早く家に戻ってほしいと思います。

ひじや・ちよこ
自由な校風と、生徒の個性、自主性を尊重するユニークな教育で知られる同学園で、創立時から生徒の学食の仕事に関わる。米から調味料に至るまで安全、健康な食材を厳選し、手作りのおいしさにこだわった給食を提供。

団塊の世代は、自分で昼食を作ろう

食生活ジャーナリスト、本会会員 佐藤達夫

 「食育」という言葉が付いていると注目を集める時代が終わり、食育の中身が問われるようになっています。良い食育と悪い食育、さらに「図に乗っている食育」というものもあるように思います。
勇気をもって言いたいのですが、食育の講演などを聴くと、「子どもの食が悪い、自給率が低くなっている」という話から、最後には、いじめも自殺も犯罪も、すべて食育が解決するという結論になる。ここまで言うのは行き過ぎで、いくら食育を行なったからといって、これらがなくなるわけではないと思うのです。
この場にいらっしゃるのは、情報を発信する側が多いですね。納豆報道をテレビでたまたま見ていましたが、「こんなのでやせるわけがない」と思って見ていました。それが、翌日に納豆売り場が空になったと聞いて、本当にびっくりした。バラエティ番組を作っている人の番組だから笑ってみよう、という感覚になっていないのです。
去年ベストセラーになった本の二つが『病気にならない生き方』と『食品の裏側』です。『食品の裏側』は、100万部のベストセラーです。これだけ多くの人があれを読んだということのほうが、おそろしかった。受け手が情報を判断することができないのです。
私はいち早くリストラされて、すでに2007年問題を経験しました。家にいて毎日三度の食事をどうするかは、大きな問題です。理想的には奥さんと一日交替で作るのがよいのですが、まず無理でしょう。その話をすると喧嘩になります。
 そこで私が主張したいのは、自分ひとりでいる時の昼飯くらいは、作れるようになりなさいということです。妻が出かける時に「おれの昼めしどうなってるの」と言わない。自分の昼食を作るのが第一目標、そこから先が今後の課題と言えるでしょう。大人の食育では、自分で食べるものを作れるようになるのが、一番たいせつだと思います。

さとう・たつお
食生活ジャーナリスト。『栄養と料理』の編集長を経て、99年からフリーの食・医学ジャーナリストとして、「健康のためにはどのような食生活を送ればいいか」という情報を発信している。

コーディネーター

山本謙治(やまもと・けんじ)

JFJ副代表幹事。㈱グッドテーブルズ代表取締役社長、就農希望者のためのセミナー「就農塾」事務局長。食品のトレーサビリティー、マーケッティング等のコンサルティングに従事。

――終わりに――

高橋久仁子

今日はいろいろお話を聞かせていただきながら考えました。「煮炊きのない食育は意味がない」と。近くのスーパーで売っている食材を買って、電気釜でご飯を炊いてみそ汁を作り、適度なおかずを、自分の手で煮炊きすることがだいじでしょう。電子レンジでチンをしても一品が完成します。簡単に調理ができるのに、なぜ調理をしないのでしょうか。
警戒しないといけないと思うのは、企業による食育です。商品を批判するくらいの気構えがあるなら別ですが、企業による丸投げはこわいのです。
食で気になるのは、歩きながら食べたり、電車の中で食べたりする人が異常に多いことです。座って食べるのがお行儀のよさといわれてきました。
弁当の日という取り組みは、私も中学生にしたことがあります。おじさんたちにも、全国的に広がるとよいと思います。食育基本法にも首を傾げていますが、ビジネスチャンスにむらがっているのも、好きではありません。
火、水、刃物に触れることは、子どもが育つ上でも非常に重要です。ぜひ煮炊きのある食卓をお願いしたいと思います。

第16回JFJ公開シンポジウム――協賛各社紹介

ご協賛ありがとうございました

協賛(五十音順)

カゴメ株式会社  株式会社ザンゴジャパン  静岡県東京事務所
大地を守る会  トーヨーライス株式会社  株式会社ミラ・ソル

(写真キャプション)
「食の楽しさを体験する機会を提供」しながら、さまざまな食育支援活動への取り組みを行っています(株式会社カゴメ)

マンゴスチンを丸ごとピューレしたザンゴジュースで、すこやかで豊かなライフスタイルを応援しています(株式会社ザンゴジャパン)

美味しくて安全な「静岡ブランド」を代表する食材を、一人でも多くの方に楽しんでいただきたい(静岡県東京事務所)

生産者と消費者を結ぶネットワーク作りで、食の安全と作り、食べる楽しさを届けています(大地を守る会)

栄養とおいしさを両立させた金芽米で、日本の伝統食文化を多くの人に知っていただきたい(トーヨーライス株式会社)

「食の安全・安心」と「食育」に関心を持たずして「責任を自覚した食のPR」はできません。(株式会社ミラ・ソル)

総合司会を担当した会員の佐々木仁子さん。

シンポジウム終了後、名刺交換会を兼ねた懇親会が開かれ、多数のご参加をいただきました。