・講 師:吉岡修(農林水産省食品安全政策課長)
     高瀬力(水産庁増殖推進部研究指導課漁業指導監督官)
・日 時:2016年10月31日(月) 10:00~12:00
・会 場:日比谷図書館文化館(東京都千代田区)会議室
・参加者:19名
・まとめ:佐藤達夫

 東日本大震災から5年以上が経過した。ということは福島第一原子力発電所事故からも5年以上が経過したことになる。遅々とした動きではあるが、復興は進みつつある。同時に、少しずつではあるが記憶は薄れつつある。一時は日本国民をあれほど騒がせた「食品の放射線汚染」の話題も、最近は報道される機会が減ってきた。いわゆる“風評被害”についても、まだまだ根強く残ってはいるようだが、収まる方向に向かっているといえよう。
 では現時点で「食品の放射線汚染の実態」はどうなっているのだろうか? 低減対策や検査はどのくらい行なわれていて、検査結果の数値はどのくらい(何ベクレル)になっているのだろうか? 闇雲に避けたり、不用意に容認したりするのではなく、冷静に観察し直す必要がある。

■約1年半前からほとんどの食品でセシウム汚染はほぼゼロ

 10月末、JFJでは「特別勉強会」を設定し、農林水産省並びに水産庁の担当官から「食品の放射線汚染の実態」を聞くことにした。食品を汚染する主な放射線としては、ヨウ素、セシウム、ストロンチウムなどがあげられる。ヨウ素は半減期が短いために5年経過した現在では食品への残留がほとんどなく、ストロンチウムは人体への影響が少ないために、現在は、セシウムを中心に汚染検査が行なわれている。
 農林水産省の吉岡氏は、土壌中(あるいは大気中)のセシウムの農産物への移行を低減するための対策を紹介したあと、この5年間の検査方法と検査結果を紹介した。検査結果の詳細は農林水産省のホームページ(※1)に出ているのでぜひ一度見てほしいのだが、スペースの関係でここでは要点だけにとどめたい。
※1 http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/radio_nuclide.html
 国が定めたセシウムの上限基準値=食品1kg当たり100ベクレル(一般食品の場合)を超える物は、品目別(コメ、肉、野菜等々)に見ても、都道府県別に見ても、ここ1年半あまり、いずれも「ほとんどゼロ」という結果が出ている。これは「栽培・飼育管理が可能な品目」に限っての数値。一方で、栽培や飼育管理が困難な鳥獣肉(野生のイノシシやシカなど)や野生のキノコ類あるいは水産物になると、基準値を超える物がわずかではあるが見つかるようだ(ただし、これは私見だが、一般の人は野生の鳥獣肉を食べる機会は滅多にないので、人体に悪影響を及ぼす可能性は低いと考えてよいだろう)。
 「栽培や飼育管理が困難」でかつ「消費者が口にする可能性が高い」食品としては水産物(養殖以外)がある。これについては水産庁の高瀬氏が解説をした。水産物のセシウム汚染調査結果についても、詳細は水産庁のホームページに紹介されてある(※2)。
※2 http://www.jfa.maff.go.jp/j/housyanou/kekka.html 
 水産庁は原発事故以来、週に1回の割合でサンプリング検査を行なってきた。その結果、基準値(100ベクレル/1キログラム)を超える割合は、福島県の海産種では、平成23年4-6月期には53%であったが、平成27年4-6月期以降は0%である(淡水種では平成28年度に入っても0%から0・4%)。
 水産庁の検査とは別に、福島県では独自に、海産類の試験操業を開始し、セシウム汚染検査を行なっている。福島県が自主的に定めた検査基準値は国の基準値(100ベクレル)の1/2の50ベクレル。これは「間違っても100ベクレルを超える魚介類が出荷されないために」という福島県の判断による。福島県のモニタリング検査結果の詳細は福島県のホームページに掲載されている(※3)。
※3 http://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/ps-suisanka-monita-top.html 
 いわきと相双の2か所の検査結果(平成24年~28年)をまとめると、検査数合計6135点中、「不検出(25ベクレル以下)」が6057点、「50ベクレル以下」が76点、「50ベクレル超」が2点。つまり98・7%が不検出であった。
 会場との質疑応答では、「食品安全のリスクコミュニケーションは、内容をわかりやすく伝えるだけでは十分ではなく、その情報を伝える人間が市民から見て“信頼に足る人物であるかどうか”が大きな要素だ。その意味では残念ながら農林水産省のお役人は充分な信頼を得ているとは言いがたい」という厳しい指摘もあった。
 農林水産省および水産庁では、低減対策や検査結果を多くの消費者に知ってもらい、農林水産物の安全性に理解を得たいと同時に、これからもこれまでと同様に放射線汚染検査を継続すべきかどうかを、国民に諮りたい意向だ。