2016年7月28日 2016年度第3回勉強会

「加工食品の原料原産地表示はこれでよいか」の報告

・講師:森田満樹氏(消費生活コンサルタント、JFJ会員)
     石原好博氏・菊田啓太郎氏(マルハニチロ株式会社品質保証部)
     蒲生恵美氏(消費生活アドバイザー)
・日時:2016年7月28日(木) 18:30~20:00
・於:東京ウィメンズプラザ(東京都渋谷区)会議室
・参加者:51名
・まとめ:佐藤達夫

■長い間検討が重ねられている加工食品の原料原産地表示

 食品衛生法、JAS法、健康増進法など、複数の法律にまたがって定められていた食品表示に関する取り決めが「食品表示法」という新しい法律に一元化され、平成27年4月1日から施行されている。すでに1年以上が経過しているが、食品を摂取する際の安全性の確保および自主的かつ合理的な選択の機会を確保するため、という法律の主旨通りに運営されているかどうかは、定かではない。必ずしも十分な議論があって制定されたとはいいがたい食品表示法には、検討・整備しなければならない課題が山積している。

 その中の1つが「加工食品の原料原産地表示」だ。生鮮食品の原産地表示は食品表示法の中でしっかりと義務づけられているが、加工食品の原料原産地をどこまで表示すべきか、現実的に可能なのか、消費者ニーズはどの程度のものなのかなどについて、生産者・消費者・加工業者・流通業者そして学識経験者などの意見や利害関係が一致せず、長い間にわたって検討・議論を重ねても結論が出ないまま今日に至っている。

 一方で、日本は大きな国際的・政治的・経済的潮流に飲み込まれつつある。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)である。政府が国民(農民?)との約束を守らずに進めてしまったため、その尻ぬぐい策(の1つ)として、自民党農林部会長の小泉進次郎氏が「すべての加工食品の原料原産地を表示することにしたい、これによって国産農産物は守られる」と宣言してしまった。このような状況下で、検討会が進められている。

■会議の流れが急激に変わった第6回検討会

 今回の勉強会の冒頭講師を務めた森田氏は「これまで行なわれた5回の会議を傍聴してきましたが、一昨日(7月26日)開催された第6回の検討会資料(※1)として事務局から提出された『論点(1)』を見て、そしてその後の会議の進め方を聞いて、わが耳を疑いました」と驚きを隠さない。第5回まで議論してきて、様々な意見が出されてまったくまとめられていないにもかかわらず、第6回の論点が「表示の対象となる加工食品」「義務表示の対象となる原材料」「義務表示の方法」「表示媒体」という簡単な4項目として提出されたからだ。

 そして、第6回検討会での最初の議論が、表示の対象となる加工食品という項目の「国内で製造した全ての加工食品を義務表示の対象とするか」という論点の最後の「か」を外す作業から始まった。つまり、「国内で製造した全ての加工食品を義務表示の対象とする」アリキで会議が進行した。森田氏は「今までの会議はすべてデキレースだったのか」と落胆したという。

 一部の消費者や生産者を代弁する委員等から賛成意見が述べられ、他の消費者や食品加工業者を代弁する委員等から反対意見が出された。しかし、平成28年6月に閣議決定された「日本再興戦略2016」(※2)にそった結論が求められているため、会議はこのあと「すべての加工食品に表示するとしたら、どのような条件なら可能なのか?」という条件設定に終始することとなった。

 次項で紹介するが、現実的には「実行可能性」はきわめて低いといわざるをえないので、その条件たるやたとえば“外国産、国産”という「大括り表示」とか、“国産またはブラジルまたはタイ”などという「可能性表示」などもOKとするような内容になるのではないかと推測される。これでは、現実としては「どこ産」なのかがわからない。これが本当に「消費者の自主的かつ合理的選択に資する」のかどうか、森田氏は疑問視している。

■食品加工事業者としては「ほぼ不可能」

 石原氏と菊田氏は、食品加工事業者の立場から「全ての加工食品への原料原産地表示がいかに難しいか」というよりも「ほぼ不可能に近い」ことを、実例を示しながら解説した。

 たとえば、マルハニチロ社の主力商品の1つである魚肉練り製品の場合は、数種類の魚種を、複数の国から輸入しており、それらのすり身の混合割合をきわめて頻繁に変えている。それによって、商品の味や弾力や色合い等を一定に仕上げることが可能となるのだが、これらの原料原産地をすべて表示することなどとてもできない。どうしても実行しようとすれば、商品の価格は相当に上がってしまうし、包装に使う資材のかなりの量がむだに廃棄せざるをえなくなるという。これらのことを消費者が本当に望んでいるのだろうか・・・・。

 加工食品の厳密な原料原産地表示が現実的ではないことは、これまでの検討会で何度も説明し、理解は得られていると食品加工事業者は考えている。しかし、閣議決定の「全ての加工食品への導入に向け、実行可能な方策について検討を進める。」の「全ての加工食品への表示」を受け入れざるをえないとすると、その条件をかなり緩めなければならないだろうという。その結果として、前項で紹介した大括り表示、あるいはホームページの利用などが提案されている。

 現時点で、同社はホームページを活用して、原料原産地表示の要求に応えている。しかし、それは「全商品」ではなく150~200品程度に限られているから可能なのであって、4000を超える商品すべてに対応することはとてもできないという。かりに、大手の事業者であれば何とか対応できたとしても、中小零細の事業者ではまず不可能であろうと推測する。これが消費者が望んでいることなのであろうか・・・・。

 消費者に「原料原産地の表示を望んでいますか?」と問えば多くの人はハイと答える。一方で、同社のお客様相談室にくる問い合わせの中で「産地に関する問い合わせ」は全体の3%でしかない。「表示アリキ」ではなく、現実を踏まえた検討が必要だと、2人は訴えた。

■不十分な検証機能の元では「ウソつき表示」が増えるだけ

 蒲生氏は前述の両氏とは別の視点から、今回の原料原産地表示の義務化の問題点を指摘した。それは「現状を正しく踏まえない表示義務強化策はウソつき表示を蔓延させ、逆に消費者にとって望ましくない状況を招くのではないか」という心配だ。

 食品表示法に限らずすべての制度は、規制と同時に適切な監視が機能することが必要だ。加工食品の原料原産地表示でも、監視の実行可能性が保証されないとウソつき表示の温床となることは容易に想像できる。つまり、強引に「全てに表示する」ことを決めただけで、その表示が本当であるかどうかなどの検証がおろそかになると、ウソつき事業者が得をすることになり、消費者のメリットにはつながらない。表示をしさえすれば消費者のためになるというのは、大きな間違いであることを指摘した。

 検証には2つの要素が欠かせない。1つは社会的検証であり、2つめは科学的検証だ。「どこどこ産」という表示を義務づけるからには川下から川上までをしっかりとたどれるトレーサビリティが大前提になる・・・・これが社会的検証。また、違反を摘発するのであればその証拠として必要な技術(たとえばDNAによる検証など)の確立が不可欠となる・・・・これが科学的検証。

 そのいずれもがきちんと機能しているとはいえないにも関わらず「義務化」だけが先行するというのが現状である。消費者にとって望ましい表示の第一条件は「その表示が正しいこと」である。必ずしもこの点が保証されていない時点で、表示の義務化を拡大することは決して妥当とはいえないと、蒲生氏は考えている。
     ☆
 直前(2日前)に開催された検討会の報告があったため、きわめてタイムリーな内容の勉強会となった。質疑応答では、これだけ多くの問題点を抱えているにも関わらず、政治的な思惑から制度だけが先行している状況に批判的意見があり、加えて、それに対してジャーナリズムが機能していないのではないかという厳しい批判も出された。報道者としてのあり方さえ問われることになった勉強会であった。

【※1】
http://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/other/pdf/160726_shiryou1.pdf

【※2】
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2016/0602/shiryo_04.pdf
(87ページ)