・講師:久松達央(久松農園代表・有機農家)、野村知司(「やさいやふうど」オーナー・八百屋)
・2013年10月29日(火)18:30~20:00
・於:東京ウィメンズプラザ第一会議室
・参加者:63名
・まとめ:本間朋子

大手繊維会社勤務から1999年に新規就農し、年間約50品目の有機野菜を栽培、直販する久松氏と、東京農業大学在学中より「都会の産地直売所」事業に関わり、青果店勤務を経て2011年に独立し、産直の青果店を運営する野村氏。アラフォー世代の2人に、消費者に向けた情報発信の考え方や、「安全・安心な野菜」とは何かなどについて対談していただいた。

■ 出会いはフェイスブック/情報発信する生産者と八百屋

自身のホームページで、「スカイプ、SNSなどを駆使するソーシャル時代の新しい農業者」を自認する久松氏と、店舗や商品の情報や自身の考えをブログなどのwebメディアで発信する野村氏。二人が知り合うきっかけとなったのは、Facebookだったという。
「リアルに会うのは3、4回目?」と笑い合う二人は、さぞかしインターネットを使いこなし貪欲に情報発信をしているかと思いきや、「戦略的に始めたわけではない」と久松氏。野村氏も「ブログやメルマガで自分の考えを押し付けることはない」と口をそろえる。
両者とも、産直、直販でじかに消費者とつながり情報発信をしているが、生産者の久松氏にとって双方向性メディアのSNSは、「自分の持っているものを出して、それによって自分の(生産物の)市場価値を高めるもの」であり、小売店主の野村氏は「メルマガ、FB、ブログ、お客様との直接の会話も、すべて同じコミュニケーションツールのひとつ」と話す。「情報発信する生産者と八百屋」なのは確かだが、発信する情報そのものに違いがありそうだ。

■ 八百屋で野菜を購入する人と、生産者から直販で買う人の違い

二人の違いは、それぞれの「商品」を購入する消費者に相対する際に際立った。
「作る」だけでなく、「作って、売ること」を仕事にしている久松氏は「多くの消費者は、『自然食、トレーサビリティ、有機野菜』などを厳密に考えてはいない。割といいかげん」と言いきる。これには野村氏も「自然食や有機野菜はなんとなく身体にいい、ステータスがあるなどのやんわりとしたイメージですよね」と応じ、「僕は有機野菜の専門店を目指していません。ホームページでもうたっていない」と語った。では、何を目指しているのか。野村氏は「農家から産直で仕入れている野菜は圧倒的に(鮮度・完熟といった)状態がいい。その野菜を誰がどうやって作り、どういう状態で届くのか、それを客に伝えることが重要。その結果、(有機野菜だからではなく)野菜の味がいいので何回も通いたくなる店を目指している」と話す。
 こうした野村氏の言葉に、久松氏は「生産者から直販で野菜を買う人と、八百屋で野菜を購入する人は違う」と指摘。「生産者から直接買う消費者は、モノだけでなく生産者自身にも魅力を感じ、買っていることが多い。一方、八百屋はもっと“マス”を相手に売っている。その意味で、生産者は良くも悪くも、自分に合う客を結果的に選んでしまう」と言う。つまり生産者は、八百屋からではなく、直接買いたくなる生産物・生産者像を発信していく必要があるのだろう。

■ 食の安心・安全

久松氏「うまいから食っちゃおうぜ」/野村氏「会話することで安全を共感」
食の「安心・安全」について、久松氏は「安全情報だけで安心を与えることはできない」と話す。「問題を理屈で考える人には数値を答えれば済む。でも、安心はその人自身が腑に落ちる回路のこと。見たいものだけを見て、聞きたいことだけを聞くという“セルフストーリー”の中に生きている人を、他人が同じストーリーの中で本質的に安心させるのは無理」と語る。
「不安を持っている人を受け止めて『大丈夫。うまいから食っちゃおうぜ』と、科学や理屈を超えたところで“お墨付き”を与える、いわばシャーマン(巫女)的な役割を担うことで安心を与えられることもある」と久松氏。
一方、野村氏は「買う人一人ひとり、安心・安全のレベルは違う。店のメインコンセプトである味の良さを伝える一方で、買う人が何を期待し何を怖がるのかを知り、それを『会話』によってフォローアップすることが大事」と言う。「トレーサビリティや農薬・放射線検査・生産者といった情報は常に準備していますが、数値を壁に掲示したりはしません。何度も会話し、食べてもらうことで安全やおいしさを共感してもらいたいと思います」(野村氏)

(感想)
お二人とも既存の野菜の出荷、流通ルートには頼らず、「消費者」と(野村さんは生産者とも)直接つながり仕事をしているという意味で共通する。「消費者」に対する考え方やトレンドの捉え方はよく似ているのに、農家と八百屋という立場の違いによって「消費者」へ語りかける言葉が大きく違うことが印象深かった。
転じて、自分はジャーナリストとして「消費者」にどのように語りかけるべきなのか。それを考えさせられた。当然、科学や理屈を超えて人々に語りかけるシャーマン(巫女)のような存在になることでも、「消費者が求める安心を与える」ことでもないように思う。非常に高いレベルでの対談だっただけに、それぞれの立場によって多くの刺激を与えられた勉強会だったと感じる。