2012年7月9日 2012年度第2回勉強会

「“50℃洗い”から広がる可能性」の報告

・講師:平山一政氏(スチーミング調理技術研究会代表)
・2012年7月9日(月)、18:30~20:00
・於:東京ウィメンズプラザ会議室
・参加者:55名
・まとめ:篠原久仁子

 各メディアをにぎわしている「50℃洗い」。実際に試して効果を目の当たりにしている方も増えている一方で、半信半疑だったり、色々な角度から疑問を抱えている方も少なくない。今回の勉強会では提唱している平山一政氏をお招きし、注目されるに至った経緯、現状から今後の展望までお話いただいた。

■50℃のお湯洗浄が食材に与える影響

 食材の汚れを取り、他の効果も念頭に水温に注意し、種々の食材の洗浄及び湯につけるテストを行ったところ、野菜を適切な温度の湯に浸せば、乾燥し始めた葉や茎も採りたてのように水分を取戻し、生気が甦ることがわかった。汚れはよく落ち、色艶は鮮やかに、生臭みは消え、野菜のうまみも流出することなく、むしろ美味しく、香り良く、甘味を感じる様になる。
 野菜の種類、産地や収穫時期にもより、最適温度は多少変動するが、ほぼ50℃を中心とした湯が適している。
 肉や魚介も50℃のお湯洗浄を行うと、まったく同様の効果を上げる。

■「50℃洗い」のやり方と留意点

 温度計を用意し、洗浄水槽や洗い用ボウルを利用し、50℃の湯を供給する温水器を設置する。小規模の場合は湯を沸かし、温度計で計測しながら水と混合すれば50℃の湯は容易にできる。お湯を溜めて洗う事で、食材に50℃の湯を均等に浸すことができ、節水効果も生じる。この方法は、ほとんどの野菜に有効であり、更に果物や生花にも効果的である。
 葉物野菜の場合は50℃のお湯に素早く全体を浸し、10秒から20秒間湯の中で汚れの多い部分を揺らして洗浄する。キャベツや白菜、レタスを丸ごと洗う場合には2~3分くらい全体を浸し、作業中の湯温を一定に保つため、湯を少しずつ補給するとよい。
 溜めた湯槽で行う場合、湯温は徐々に下がるが、腐敗菌の生存温度に近い42~3℃以下にならない様に注意する必要がある。また50℃の湯から上げた後、さらに品質を保持するための手段として、冷水や氷、ブラストチーラーによる冷却を行う場合もある。

■細胞、成分への影響

 50℃のお湯に食材を入れると、突然の熱ショック(ヒートショック)により瞬間的に気孔を開き、活性化している水分子を取込み、同時に表面近くに保有付着する揮発成分を洗い、蒸発する作用を生じる。
 収穫後の経過や保存の方法にもよるが、「50℃洗い」の時に吸収する水分量は予想外に多く、30~40%もの吸収になっている場合がある。
 失われていた水分を吸収後は、気孔を小さく閉じ、水分蒸発を抑えるため、鮮度維持が図れる。その作用が野菜自身のドリップやうま味成分の流出をさせない要因と考えられる。

アクを取る効果
 アクを作る成分は食材によって異なるが、ホモゲンチジン酸、シュウ酸カルシウム、タンニン、不飽和脂肪酸の酸化物、サポニンなどであり、比較的低い温度の揮発性成分である。その成分は酸素と結合し、アクに生成する。
 50℃の湯熱は揮発性酸を放散し、アクを除去する効果がある。つまり、アクは熱湯で取る必要はなく、栄養素やうま味を十分残し、刺激性の酸も変化させる効果もあり、甘味をより多く感じる事となる。
鮮度維持が長くなる
 50℃の湯における殺菌効果としては、一般生菌の殺菌法としては温度不足であるが、腐敗菌や病原菌等、多くの初発菌を抑止する効果がある。その結果、比較的短期間に発生したカビも生じることなく、傷んだ場所も広がらず、腐敗の進行は遅くなる。
 採りたての野菜も「50℃洗い」を行えば、鮮度の高い状態で保持できる日数は長くなり、鮮度維持法として有益だ酵素の作用
 野菜の酵素はほぼ70℃で失活するとされるが、酵素は多種あり、その温度条件も異なるため、一つの温度の作用とは断定できない。酵素の種類により低い温度でも働きが止まるものもあり、比較的高い温度でなければ活性の止まらないものもある。
 特定の酵素活性により野菜の熟成を促す作用とも考えられ、50℃の熱に出合い、反応する働きは、過去に認識していたものと異なる。

■スチーミング調理の歩みと「50℃洗い」発見の経緯

 食材を加熱する方法の中で、最も効率的な「蒸す」方法に注目し、加熱条件を調べてみると、食材組織や成分、栄養素などを最適とする温度はそれほど高くない事が分り、100℃以下の温度で蒸す、「低温スチ-ミング」に取組む事になった。
 各種適正な温度があり、スチーム温度を下げて加熱すると、うま味を凝縮し、甘味、香り、色艶などが良く、良い食感になる。鮮度は長く維持し、美味しい香りの成分は、高め温度で保持し、アクや生臭みを作る成分は低い温度で取れる事がわかったのである。 
 しかし野菜に付着した土や汚れは取れず、スチームする前に水洗いをしていた。そこで事前の水洗いを変更し、45~55℃のお湯による各種の野菜洗浄のテストを行ったところ、野菜の不思議な変化と現象に出合い、50℃のお湯のもたらすミラクルに遭遇する事になった。

■今後の課題

 「50℃洗い」をすることで野菜料理が手軽になり、美味しく食べる上でも大きな力になる。この応用展開により生産、流通、消費の全てに大きな影響を与える事になると思われるが、この事実について殆どの料理関係者、野菜、果物、花卉の専門家、農畜産業、漁業関係者、研究者とも広く知られていない。しかし、一般の主婦などから口コミで徐々に広がり、実用化が進みつつある。
 さらに、野菜、果物、花卉に限らず、もっと多くの食品分野に応用可能である。この応用は、限りない可能性を想像でき、ソフトやハードについても新たな可能性があり、従来考えられなかった効能が予測できる。
 この技術に関しては全ての方々に開放し、有益な利用による成果を国民の“食のあり方”に生かしてほしいと願っている。ぜひ実践し、効果を確認して、皆さまに知らせていただきたい。

50℃の湯がもつ可能性は、「洗い」だけにとどまらず、「50℃漬け」、「50℃散布」、「50℃治療」と広がりが期待できるという。研究が追いついていない面もあるが、それゆえ耳を貸さなかった専門家ではなく、家庭で実践した主婦からブームが広まったエピソードを聞き、理屈で考えるより、まずは実践してみることが理解への近道なのかもしれないと感じた。