2009年7月24日 2009年度第3回勉強会

「どうなる?メタボ診断基準」の報告

特定健診・特定保健指導開始から1年、その現状と問題点

  • 講師:大櫛陽一氏(東海大学医学部基礎医学系教授)
  • 平成21年7月24日、18:30~20:00
  • 於:東京ウィメンズプラザ会議室
  • 参加者:23名

まとめ:佐藤達夫

メタボ健診データは捏造である!

「特定健康診査・特定保健指導」いわゆるメタボ健診が開始されて1年が経過した。この段階でその成果を問うのは性急ではあるが、メタボ健診が始まる以前から「日本版メタボリックシンドロームの基準そのものに異議あり!」と警告を出し続けているのが、今回、講師をお願いした大櫛氏だ。

OECD(経済協力開発機構)には、現在、主として先進国と云われる30カ国が参加しているが、その中で日本の平均寿命は世界第一位(男女平均)である。ところが「自分の健康状態をどう思うか?」という問いに対して「健康状態がよい又はそれ以上」と回答した人の割合は、ポルトガルやスロバキアと並んでほぼ最下位である。つまり日本人は、最も長生きであるにもかかわらず、自分のことをとても「不健康」だと思いこんでいる国民だということになる。

なぜこうなったかの一つの答えとして、大櫛氏は、医師や製薬会社、はては厚生労働省までが「日本人は健康ではない」という誤った情報をまき散らしているからだという。

まずは肥満。肥満の度合いは、世界の多くの国でBMI(体格指数)を基準としている。体重(kg)を身長(m)で2回割った数値がBMIで、日本肥満学会はBMI=22を理想体重とし、25以上を肥満と規定している。

しかし大櫛氏は、日本人のBMIと死亡率との関係を年代別(59歳以下・60歳代・70歳代・80歳以上)に見てみると、いずれの年代でも、死亡率が最も低いのは「BMIが25・0~26.9」の人たちなのだという。つまり日本肥満学会が「肥満なのでやせるほうがいい」と規定している人たちが最も死亡率が低いわけで、大櫛氏は「この人たちはやせる必要はない」と断言する。

むしろ日本人の場合は、BMIが20未満の「やせすぎ」の人たちのほうが死亡率がかなり高いので、この人たちにもっと太るように指導すべきだという。現在、メタボ基準の第一関門は「男性でおへそ周り85cm以上・女性では90cm以上」としているが、これでは最も死亡率が高い「やせすぎ」の人たち(とりわけ女性)が見落とされてしまう結果となる。

大櫛氏は「血圧についても同様のことが指摘できる」という。

日本のメタボ基準では「収縮期血圧が130mm/Hg以上、または拡張期血圧が85mm/Hg以上(以下、血圧に関しては単位を省略)」を該当条件としている。これは「この値を超すと心血管疾患や脳血管疾患等の重篤な病気にかかる確率が高まり、死亡率が高くなる」というデータから導き出されている。

大櫛氏は、これもデータの捏造だと指摘する。

「高齢者は血圧が高く、同時に高齢者は死亡率も高い。そのため、若い人も高齢者もひとまとめにして“血圧と寿命”の関係を調べると、当然のことながら“血圧の高い人は死亡率が高くなる”という結論に至る。それを根拠に先ほどの基準値が示されている。

しかし、年代別(40~50歳代・60歳代・70歳代・80歳代)に分けて死亡率を見てみると、たとえば男性では、いずれの年代でも、収縮期血圧が120~150・拡張期血圧が80~99では、死亡率はそれほど変わらずに低い。死亡率がやや高くなるのは、いずれの年代でも160/100以上だし、死亡率が明らかに高くなるのは180/110以上の高齢者(70歳代以上)に限られる。

つまり、いずれの年代でも、少し気をつけなければならないのが160/110以上で、治療の必要があるのは180/110以上だといえる。130/85などというのは正常血圧であって、メタボの基準としてはまったくふさわしくない」と断言した。

大櫛氏は“常識を覆すデータ”を、脂質異状症(高脂血症)についても、糖尿病についても提示した。そして、このような非科学的な数値を基準にすれば、日本人の大半は生活習慣病患者にされてしまうし、喜ぶのは製薬業界だけだと警告した。

日本の生活習慣病患者を減らし、将来の医療費削減に結びつけるべく始まった特定健康診査・特定保健指導だが、このままでは、そのいずれにも到達できないと、大櫛氏は結論づけた。以下は大櫛氏が提言する「まとめ」である。

  1. 特定健診・特定保健指導は無駄かつ危険な医療を増やすであろう。
  2. 早期異常の見逃しや薬物副作用により、将来さらに医療費が増えるであろう。
  3. 保険料の上昇となり、公的医療保険制度に重大な影響を与えるであろう。
  4. メタボリックシンドロームを基本とする特定健診は根本的に見直されるべきであろう。
  5. 各臨床学会が作成している診療ガイドラインは利益相反の影響が大きいので科学的なガイドラインを作成する組織を立ち上げる必要があると思われる。
  6. 日本人の疾患や健康リスクに即した健診にパラダイムシフト(決定的大変革:筆者注)すべきである。

以上が、大櫛氏の勉強会講演のごくごく簡単なレポートであるが、最後に、レポーターとしての感想を述べたい。

いわゆるメタボ健診は日本の名だたる8つの臨床学会が共同で発表した。それに真っ向から逆の主張をする大櫛氏は、いわば日本中の医者を敵に回して孤軍奮闘していることになる。世の中にはさまざまな研究者がいて、さまざまなデータを発表している。専門家ではない私たちも「どのデータが信頼でき、どの研究は正しくないか」を正確に判断する能力が求められていることを痛感した。

また、あえて誤解のないようにお伝えすると、どのデータも一般論であって患者個人にそのまま当てはまることはない。たとえば、現在の血圧が150/100で、主治医から投薬されている人が、大櫛氏のデータを見て、明日から薬を飲むことを止めてはいけない。個人の診断は基本的には主治医に任せるべきである。