2019年9月25日 2019年度 西日本支部 第1回勉強会の報告

「料理番組のジレンマ」~家庭料理が求めるプロの技って何~

・講 師:玉谷 章氏(テレビ・ディレクター)
・会 場:エコール 辻 大阪
・参加者:14名
・文 責:小山伸二

1995年に始まった朝日放送「上沼恵美子のおしゃべりクッキング」。来年25周年を迎える長寿番組で、月曜日から金曜日までの毎日、上沼恵美子さんとゲストのトークを交えながら、家庭でできる料理を紹介するスタイルで、放送したメニュー数は5900を越えるそうです。
https://www.asahi.co.jp/oshaberi/

この番組に、ディレクターとして20年以上、携わってきた玉谷さんに、「ジレンマ」というキイワードで、料理番組の舞台裏をお話ししていただきました。

【講演概要】
まず最初のジレンマは、プロの料理か、家庭料理か。
お昼の時間帯に放送されるこの番組では、いかに手をかけて付加価値をつけるかというプロの料理の紹介ではなく、いかに効率よく作れるのか、という家庭料理の観点に絞り込んでいる。とくに、視聴者が作ってみたいと思ってもらえる料理とは何かが、鍵になる。
作ってみたい、と思ってもらえる料理とは、なにより①簡単で安上がりだけど美味しそう、となる。
さらに、②簡単とは言えないが、安上がりで美味しそう。③少し手が掛かって安上がりでもないが、美味しそう。④多少難しいが特別な日のために知っておいてもいいかな?と、思える料理も加えながら、プロの調理師を養成している学校の先生と目ミュー会議などを重ねて、レシピに落とし込んでいく。
また、この25年の間に、よく使われるようになった食材や調理道具もある。例えば、パクチー、豆苗、スペアリブといった食材や、野菜の水切り器や百円ショップで買える小麦粉ふるいなどは、番組で活躍している。

グルメ番組か料理番組か、というジレンマ。
同じ料理を扱っていても、グルメ番組か料理番組では、映像の撮り方がだいぶ変わる。グルメ番組では料理の臨場感を出す映像(素材にズームしたものなど)作りをするが、料理番組では、調理している「現場」の状況がわかりやすい、より説明的な画面作りを心がけている。
美味しそうに撮ることよりも、見ている人が料理を再現できるように、道具の配置や料理する人の体の動きも含めた情報を伝えるために、広めの画面になる。

全国放送の番組だけど、大阪制作というジレンマ。
あくまでも全国放送なので、料理、食材などに、あまり強く地方色が出ないように心がけている。とくに大阪の放送局の制作ということで、食材名などが関西寄りにならないように配慮している。
そして、最後に、バラエティ番組か、情報教養番組か、というジレンマ。
「おしゃべりクッキンング」は、いわゆるバラエティ番組ではなく、情報教養番組として、料理を伝えるというスタンスがある。上沼さんとゲストの方の楽しいトークも盛り込んだ楽しい番組作りは前提としつつも、あくまでも情報(料理の作り方やコツ)をきちんと伝えるという枠をはずさないようにする。

普段、聞くことのできないメニュー作りの苦心など、出演する辻調理師専門学校の先生方もゲストとしてお話が。プロとか家庭料理とかの枠を越えて、おさえておきたい、「コツ」などを簡単なレシピの中にいかにひそませるか。簡単だけではなく、料理を作ってみたくなる好奇心をいかに掻き立てるか、そのあたりにもチャレンジしているとのこと。
ネットが「検索」という形でアクセスされるのに対して、毎日、放送している番組の強みで、固定ファンのほかに、偶然、視聴する人も多くいる。そうした、たまたま、番組にふれた人が、「自分でも料理を作ってみたくなる」、そういうふうに。そうした機能がテレビにはあるのではないか、と改めて思いました。